powder

 ある嵐の夜、雷に打たれた瀕死の妊婦が担ぎこまれてきた。奇蹟的に赤ん坊は生まれたが、間もなく母親は息を引き取っってしまった。赤ん坊は人目を忍んで育てられた。数年後、テキサス州イートン郊外の農家で老人の死体が発見された。赤ん坊の祖父だった。ジェリミーと名付けられた彼は施設に引き取られ、高校に通うことになった。初めて見る外の世界。異様なほどに白い肌、不思議な色の瞳という外見と、高い知能と超能力に、人々は恐れを抱き偏見の目で彼を見た。それは彼にとって穢れを知らない分傷つき心を閉ざすこととなった。その肌の色からパウダーと呼ばれ、施設でいじめを受けていた。だが、彼の不思議な力の前には、いじめっ子もなすすべがない。高校でパウダーは物理の実験中に失神してしまう。物理の教師ドナルド・リプレイは彼の身体があらゆる電気エネルギーを引きつける能力を持つことを確信した。知能テストで世界でいちばん知能が高いと判断された彼に徐々に心を開く人が増えた。町の祭りの日に同級生のリンゼーと初めての接吻を経験する。だが彼女の父親に仲を引き裂かれ、パウダーは大きなのショックを受けた。教師のリプレイは彼を慰める。パウダーは施設を出て住んでいた懐かしい祖父の家へ向かう。心配してやって来たリプレイらの前でパウダーは天使のように飛び立っていくのだった。
 監督はこれが映画デビュー(だと思う)となるビクター・サルバ。こんなきれいな映画を撮りながら、『ヒューマン・キャッチャー』など2作品くらいしか公開されず(と思う)、あまり後世に名を遺すような活躍には至っていない。残念だ。この特異な人物パウダーを演じたのは当時アイドル的存在だったショーン・パトリック・フラナリー。この役に挑むため全身の体毛を全て剃り、アイドル脱却を図った。この作品前後して50本以上の映画に出ているが、残念ながら評価には至っていない。たぶん、この映画がいちばんの出来のように思う。
 色素を持たないという障害のため、肌は真っ白で体毛も生えない。そのため実の父親には見捨てられてしまい、祖父・祖母と一緒に誰の目にもつかないようにひっそりと地下室で暮らしていたという設定。そこに老夫婦の死を展開させて彼のピュアな心を、普通の人々からは違和感を憶えてしまう容貌とともに、外界へと引きずり出してしまうこととなる。興味本位の周りの好奇の目は理不尽ないじめとなって彼の心を傷つけてゆく。ちょうど先回書いた『シザーハンズ』を彷彿とされるピュアな心と周りのフリークを見るような眼。『エレファント・マン』でも同じような感じを持った。それが、フリークであろうが、人造人間であろうが、超能力者であろうが、病気であろうが、結果は同じなんだな、と思わされた。そして、超能力者の末後という意味では『フェノミナン』を連想させる。どれもこれもラストは必ず、再び閉じこもるか、命を絶つか、である。どうしてそうなってしまうのだろう。みんな、初めは好奇の眼でも、一度は心を開くようになるのに。その表情がどれも、本当に切なくなる。哀しいほど。観ている途中も終わった後も嗚咽にもなる号泣だが、それが悲哀とか憐憫とか同情でしかないのが辛い。残念だ。感動とは少し違うのだ。心の癒しと謳っているが癒しになりきれていない、哀しい。
 白い、ということはそのまま色がついてないことを表現している。彼は、何もかけらも悪の感情を持っていない。高い知能と電解質な体質、人や動物の心が読める超能力、それと引き換えに得意な容貌を与えてしまうことしか神はできないのだろうか。そして、人間はピュアなまま生きられないのだろうか。しかし、この映画の彼は途轍もなく際立って美しかった。それだけは言える。

 
◎作品データ◎
『パウダー』
原題:Powder
1995年アメリカ映画/上映時間:1時間52分/ブエナ・ビスタ配給
監督・脚本:ビクター・サルバ/製作総指揮:ライリー・キャサリン・エリース, ロバート・スヌーカル/製作:ロジャー・バーンバウム, ダニエル・グロドニック/音楽:ジェリー・ゴールドスミス/撮影:ジャージー・ジーリンスキー
出演:メアリー・スティンバーゲン, ショーン・パトリック・フラナリー, ランス・ヘンリクセン, ジェフ・ゴールドブラム, ブランドン・スミス
 
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