ニューヨークのウエスト・サイドは不良少年たちの巣食うスラム街と化していた。イタリア系アメリカ人の少年たちで構成されているジェット団は、最近幅を利かせ始めているプエルトリコ系アメリカ人のシャーク団と敵対関係にあった。一触即発の状況が続くある夜、中立地帯であるダンスホールで顔を合わせることになった。きっかけさえあれば今にも爆発しそうな空気のなか、初めてのダンスパーティに期待で胸を弾ませていたマリアは、そこでトニーという男性に出会い、恋に落ちてしまった。2人はキスを交わした。しかし、マリアがシャーク団のリーダーであるベルナルドの妹であり、トニーが以前ジェット団のリーダーだったため、二人の恋は危ういものだった。しかし、ジェット団とシャーク団はついに衝突を始め、マリアの必死の願いにトニーは両者の間に飛びこんで行ったが、血気にはやる彼らはトニーの言葉に耳をかそうとはしなかった。そしてリフはベルナルドに刺されて死んでしまった。親友リフの死に我を忘れたトニーは今度はベルナルドを殺してしまう。ベルナルドの恋人アニタに責められてもトニーを忘れられないマリアは、トニーの高飛びに同意するのだった。シャーク団のチノはベルナルドの仇を打とうとトニーをつけ狙い、警察の手ものびてくるように。アニタはマリアの愛の深さを知り、トニーと連絡をとるために街へ出ていく。しかし、ジェット団に倒された怒りからマリアはチノに殺されたと嘘をついてしまう。絶望して夜の町へ飛び出したトニーの前へ拳銃を構えたチノが現れた。急を聞いて来たマリアの腕の中で、トニーは絶命するのだった。
ブロードウェイ・ミュージカルの70ミリによる映画化。「ロミオとジュリエット」を現代化したラブロマンスを縦系にして現代の青春悲劇をリアルに描いた作品。ニューヨークから世界中に熱狂と興奮を巻き起こしたコノミュージカルは、ジョージ・チャキリスの助演男優賞を始め、1961年度アカデミー賞の10部門を独占。映画史上屈指の名作として世界が認める悲しい恋の物語だ。
原作は「旅情」の作者アーサー・ローレンツ、脚色をアーネスト・リーマンが担当、監督は『拳銃の報酬』のロバート・ワイズと振付も兼ねているジェローム・ロビンスの共同。撮影は『5つの銅貨』のダニエル・L・ファップ。画面構成にタイトルをデザインしたソール・バスが一役加わっている。音楽は『踊る大紐育』『波止場』のレナード・バーンスタイン。出演者はナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ラス・タンブリンなど。製作はロバート・ワイズ。
前回、100作目のレビューを終えてから、屈辱のブログ閉鎖を強いられ、いつか再開するときは101作目は『ウエスト・サイド物語』にしようと決めていた。正直、筋書きは定石通りでありきたり。斬新な感じは何もない。しかし、冒頭から次々と繰り広げられるダンスシーンは勢いがあり、そこに若者特有の危うさと脆さがある。映画芸術として総合的に見ると、エンターテインメントとして大きな力があり、どんどん引き込まれる。
吹き替えについては、問題も多かった。主役級の俳優たちの歌は大部分が吹き替えられており、吹き替えの歌手の名前は、現在でこそ反映されているが、当時は映画でもサウンドトラックアルバムでもクレジットされていなかった。特に大きな問題となったのはナタリー・ウッドの吹き替えで、彼女は自分の声が使われると信じて撮影を行っていた。しかし、裏ではマーニ・ニクソンによる吹き替えが決められていて、撮影終了後に激怒したと伝えられている。編集者など多くが自己の利益を求めて訴訟を起こしている。他にもアニタの吹き替えを担当したワンドも訴訟を起こし、サウンドトラックの売り上げの一部を受け取ることで和解している。
今、見返してみると、人種差別やいじめ問題の警告のようにも取れてしまう。若い時は無茶をしたもんだよな、と自分の青春を振り返ってみたり、感慨に更ける部分は多い。しかし、前述したようにストーリーはお決まり、結末も予感でき、結局はこの映画のエンターテインメント性や芸術性に論評は落ち着く。ミュージカルが嫌いと言ったらそれまで。この映画の良さは、その芸術性が、我々の実生活に密着して感じられるとこだ。当時の衝撃はよほど計り知れなっただろうと想像される。少なくとも映画評と称してブログを書くのなら、この作品が出てこないのはおかしい、と言えるほど、映画界に激震を与えた作品だ。ダンスや音楽を、ただただ堪能してほしいと思うばかりの1作。
◎作品データ◎
『ウエスト・サイド物語』
原題:West Side Story
1961年アメリカ映画/上映時間:2時間32分/ユナイテッドアーティスツ配給
監督:ロバート・ワイズ, ジェローム・ロビンス/原作:アーサー・ローレンツ/脚本:アーネスト・リーマン/製作:ロバート・ワイズ/音楽:レナード・バーンスタイン/撮影:ダニエル・L・ファップ
出演:ナタリー・ウッド, リチャード・べイマー, ジョージ・チャキリス, リタ・モレノ, ラス・タンブリンカーン
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