カナダ、トロント。少年時代からいつも一緒に人体解剖模型で遊んでいた一卵性双生児のエリオットとビヴァリーは、のちに不妊治療で有名な産婦人科医師となった。社交的で野心家、仕事を首尾よくこなすエリオットを内気で繊細、研究熱心なビヴァリーがサポートし、トロントに婦人科医マントル・クリニックを開業、医師会の頂点に上り詰めてゆく日々だった。ある日ビヴァリーのもとに、女優クレア・ニヴォーが診察に訪れ、体内で3つの小部屋に分かれている彼女の子宮に驚く。エリオットはビヴァリーの報告をうけ、彼女に子供の持てぬ体であることを告げ、その夜関係をもった。翌日クレアを訪れたビヴァリーは奔放な彼女に惹かれてゆく。彼女は兄弟が双子であることを知らず、自分の乱れた過去を告白し、ビヴァリーをベッドに誘った。何もかも共有し楽しんできた兄弟の初めての秘密。が、ある日彼女が友人からマントル兄弟の真実を知ったことで、この平穏は音を立てて崩れた。激怒してビヴァリーのもとを去るクレア。彼は精神を次第に蝕み、薬に依存し現実逃避に走った。クレアの浮気を誤解した彼はますます薬にのめりこんでゆく。苦悩のあまり、今度は妄想にとりつかれ始め、異様な医療器具を作らせ、手術を執刀し、錯乱のうちに患者を傷つけてしまう。エリオットの看護で次第に自分を取り戻してゆくビヴァリー。しかし、今度はそれに反比例するかのようにエリオットの精神が徐々に崩れてゆき、ある日悲劇は起きた。
 幼少期から一心同体に育った完璧な一卵生双生児の婦人科医の兄弟が、ある女性とに出会いにより自己同一性の均衡を崩してゆく姿を描く鬼才デヴィッド・クローネンバーグの傑作サイコスリラー。赤い手術服と赤い背景、不気味な医療器具がクローネンバーグの世界観を見事に描き出してる。不気味に再現した傑作。揺れ動く双生児を名優ジェレミー・アイアンズが好演している。第1級のサイコ・スリラー作品と言え、ドラマの枠に入れるか、サスペンスの枠に入れるか迷ったが、サイコホラーとしてホラーにジャンル分けしてみた。
 この作品はニューヨークで実際に起きた事件が元になっている。診療室で双児の産婦人科医が一緒に死んでいるのが発見されたという事件だ。映画はそこからインスピレーションを得ている。作品はアボリッツ国際ファンタスティック映画祭でグランプリと高等技術委員会賞、デヴィッド・クローネンバーグはLA映画批評家協会賞最優秀監督賞を、ジェレミー・アイアンズはNY批評家協会賞最優秀主演男優賞を獲得している。
 一種独特の雰囲気ではあるが、『戦慄の絆』はデヴィビッド・クローネンバーグ中では、また少し違った異彩を放っていた。それまで『スキャナーズ』『ビデオドローム』『ザ・フライ』など。ホラー・スプラッタ・SF監督として異端児扱いされていたが、偏った分野とは言え世界的な賞を受賞し、評価を得ることになった。『デッドゾーン』もある種マニアックな傑作と一部でもてはやされていたが、人間らしい内面をモチーフにした心理ドラマは本作がはじめてだった。
 おどろおどろしい映像、それは内面の投影でもあると思うが、心理描写が絶妙で、強い自己愛と、それに劣らないほどの、異性愛など入り込む余地のない近親相姦天的な兄弟愛。双児というものはこんなにも共鳴しあうものなのか。微妙で危うい均衡をそれでもすれすれ保ちながら名声を得たのに、その名声と嫉妬、第三者の出現によっておのおのの精神まで崩壊に導かれる。一旦は他者との出会いによって解放されるかに見えた弟の人生は生まれながらの縛られた絆に引き戻され、兄もまた自ら絶望の運命への深海に沈んでゆく。無機質な冷酷さとねっとりとした映像で映し出されるクールでありウェットなエロティシズムの混在がクローネンバーグならではの味を醸し出していると感じた。
 タイトルの“Dead Ringers”は「生き写し」「瓜二つ」といったような意味。異色な関係に支配された彼らは、独りでは決して生きられない依存関係を露呈し、きわどくグロテスクでありながら恐ろしく美しい。好き嫌いが分かれるので、薦められる人は限られるが、大好きな作品だ。

◎作品データ◎
『戦慄の絆』
原題:Dead Ringer
1988年カナダ映画/上映時間:1時間55分/ベストロン映画配給
監督:デヴィッド・クローネンバーグ/製作:デヴィッド・クローネンバーグ, マーク・ボイマン/原作:バリ・ウッド, ジャック・ギースランド/脚本:デヴィッド・クローネンバーグ, ノーマン・スナイダー/音楽:ハワード・ショア/撮影:ピーター・シャシスキー
出演:ジェレミー・アイアンズ, ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド, ハイジ・フォン・バレスク, バーバラ・ゴードン, シャーリー・ダグラス

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