近未来。遺伝子工学の進歩で胎児の間に劣性遺伝子を排除することが出来るようになった。自然出産により産まれた「不適正者」との間で厳格な社会的差別がそこにはあった。自然分娩で生まれたビンセントは、宇宙飛行士を夢見る普通の青年、しかし劣性の遺伝子を持つ希望の無い生活を送っていた。劣勢遺伝子排除されて生まれた弟アントンと比べ、自分を遺伝子的に劣った「不適正者」であると思っていたヴィンセントだが、遠泳でアントンに勝った彼は家を出る決心をする。そんなある日、ビンセントは闇業者の手配により、事故により下半身不随になって夢を絶たれた優秀な遺伝子をもつ元エリートであり「適性者」のジェロームに成りすます偽装の契約を結ぶ。ジェロームの遺伝子を借りてエリートとなったビンセントは、宇宙飛行施設“ガタカ”に潜り込む。頻繁に行われる化学検査をくぐり抜け、彼はついに探査船の航海士の座を射止めるが、そんな中、彼の正体に疑いを持っていた上司の殺人事件が起こった。事件現場で「不適正者」ビンセントのまつ毛が発見された事から正体発覚の危機が訪れる。ビンセントの素性に疑いを抱く「適正者」の女性局員アイリーンと、今やエリート捜査官になった「適正者」の弟アントンの登場で状況は変化。結局、犯人は別にいたが、ビンセントに好意を抱き始めていた真実を知ったアイリーンは嘆き悲しむ。打ち上げ決行の前日、ヴィンセントはアントンと再び遠泳で対決した。その闘いに勝ったヴィンセントはユージーンに別れを告げて探査船に乗り込んだ。ユージーンは自らの命を絶った。
 遺伝子が全てを決定する未来社会を舞台に人間の尊厳を問うサスペンスタッチのSFドラマ。「トゥルーマン・ショー」の脚本家としても注目されたニュージーランドの新鋭アンドリュー・ニコルの監督デビュー作。製作は「マチルダ」など俳優・監督として知られ、自身の製作会社ジャージー・フィルムズで「危険な動物たち」などを手掛けるダニー・デヴィート、同社の共同設立者であるマイケル・シャンバーグとステイシー・シェール。撮影は近年アメリカに進出したスワヴォミル・イジャック。音楽は名匠マイケル・ナイマン。主演はのイーサン・ホーク。共演はユマ・サーマン、ジュード・ロウ、ローレン・ディーン、ゴア・ヴィダルほか、芸達者な若手からベテランまでが脇を固める。
 ちょっと設定が突飛過ぎ。個人認証の皮膚の貼り付けや、尿の取り換え、脚を切断して骨を延ばすなんて、無理がある。でも、近未来って、本当にあり得そうにも感じる。個人よりもDNAを優先する未来社会。しかしそこで夢を追い続ける主人公の苦悩と恋の行方は、青春映画のみずみずしさが斬新で鮮烈。マイケル・ナイマンの哀愁あふれる音楽や青を基調にしたスラヴォミール・イジャックの映像も独特の雰囲気を醸し出している。
 "Gattaca"の語源、クレジットで強調されるGとAとTとCは、DNAの基本分子であるguanine(グアニン)、adenine(アデニン)、thymine(チミン)、cytosine(シトシン)の頭文字である。人間の成し売る限界は、遺伝子だけではなく劣性遺伝子を持つ「不適正社」でもド廬行くにより希望があり、「適正者」であっても運命で左右されてしまうという人間味とその苦悩を描いたSF作品であり、ドラマだ。
 母親の胎内に居る時既に子供の死因と推定寿命が判明するほど遺伝子工学が発達した未来では、両親の愛の結晶として生れたとしても、遺伝子レベルで操作されていない限り不幸な人生のスタートを強いられる。誕生時の遺伝子検査で心臓疾患の可能性を指摘されたことから、高等教育を受けるチャンスを奪われ、一流企業に入社することもできない。彼は宇宙飛行士になる夢を叶えるため、彼のエゴイズムと緻密な違法な契約へと考えを転換してゆく。しかし、そこに古臭い学歴社会は現実に近いリアル感を受け、感情移入しやすい部分もある。不適正者のヴィンセントと適正者のアントンが海での遠泳の競争をするシーンは人間味を感じる。それからジェロームとの関係。ジェロームは金メダルを取れなかったうえに将来がないから自殺へと決心をしたのだと思う。銀メダルを胸にしていた理由は、金メダルを取れなかった屈辱と、銀メダルを獲得した誇りではないだろうか。ここにも深い人間味を感じる。SFでありながら、またハッピーエンドでないにもかかわらず、この映画がいとおしいのはこの辺の人間味あふれるドラマのせいかもしれない。
 もうひとつ、最後にボクが印象的だったのはオープニングの映像、切った爪が水の中にスローモーションで沈んでいく映像。いかにも、この物語の全体像を映像にした不可思議なオープニングだ。華はないけど秀逸な、また大好きな作品だ。

◎作品データ◎
『ガタカ』
原題:Gattaca
1997年アメリカ映画/上映時間:1間46分./コロンビア映画配給
監督・脚本:アンドリュー・ニコル/製作:ダニー・デヴィート, マイケル・シャンバーグ, ステイシー・シェール/音楽:マイケル・ナイマン/撮影:スラヴォミール・イジャック
出演:イーサン・ホーク, ユマ・サーマン, ジュード・ロウ, アラン・アーキン, ローレンディーン

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