Archive for 4月, 2009


 1970年ごろのボストンの貧困地区、ジミーとショーンとデイブは路上でいつものように遊んでいた。やんちゃな些細ないたずら、警官と思われる男が注意し、デイブだけを車に乗せて連れ去った。数日後、デイブは暴行を受け無惨な姿で発見される。そして25年後、それぞれが家庭を持って、それぞれが問題を抱えていた。ある日、ジミーの19歳の最愛の娘が殺されてむごたらしい姿で発見される。今では刑事となったショーンがこの事件にあたる。デイブが容疑者として浮かび上がった。ショーンが必死に捜査にあたる中、ジミーはデイブを運命の場所ミスティック・リバーへ呼び出したのだった。そして、犯してはいけない過ちを犯したとき、別の真犯人が捕らえられるのだった。
 殺人事件のミステリーの枠を超えた、心を揺さぶる痛ましいまでの悲哀と人生を生き抜く力強さを描いた感動作。デニス・ヘラーのベストセラー小説をクリント・イーストウッドが映像化した。オスカーの主演男優賞をショーン・ペンに、助演男優賞にティム・ロビンスをもたらした映画だ。ほかにもケヴィン・ベーコン、ローレンス・フィッシュバーン、マルシア・ゲイ・ハーデン、ローラ・リニーといったこれ以上ないキャストを配して余りにも底知れない誤解と悲惨を美しく酷く描いたこの作品を観て、運命ともいえる悲しみの連鎖にただただ悲しみが残る。
 誰が悪いわけでもない、そういう映画ではない。みんな悲しみと絶望と過ちに満ちている。でも、みんなやさしいのだ。何がどう間違ってこうなってしまうのか。はじめに連れ去られたのがデイブだったというだけで、運命的にこうなってしまったのだろうか。心に傷を負ったいちばん可哀そうな人間が救われない、本当に酷い映画だと思う。少年時代は親友だった3人。でも3人ともそれぞれがそれぞれを今では友だちなわけではないという。しかし、心の底には少年時代をともに過ごしたノスタルジックな思い出が残っている。なのに、どうしてそれがこんな悲劇になってしまうのだろう。あの時こうしていれば、あの時の連れ去られた少年がデイブじゃなかったら…どうしてもそれは思わずにはいられない。過去に翻弄されている3人が、過去を払拭できないままそれぞれに心に渦巻く家族への愛憎や日常への苛立ちを抱えている。これを存続させている微妙な心のバランス、この均衡が崩れたとき、人間は信じられないほど愚かになる。この映画は生身の人間の在り様を浮き彫りにする。つまらない悲劇に終わらず、泣いたらすっきりできるような感動のかけらでもない。真相はあくまで彼らの心の根底にあって、観る者にさまざまな解釈がされるのだ。誰も正しくないし、誰も支持したくない、でも誰も責められない。そんな感じだ。
 クリント・イーストウッドは、もう俳優業からは引退すると噂されているが真相はどうなのだろう。ボクとしては、『グラン・トリノ』がいい幕引きの燻し銀の演技で、監督を続けてくれればそれでいい。まだ、映画で表現し纏める力は全く衰えていない。
 監督としてたくさんの名作を残しているクリント・イーストウッドだが、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』でオスカーを受賞し、2大名作とされている。でも、ボクは個人的にこの『ミスティック・リバー』がいちばん好きだ。今年の日本公開分だけでも『チェンジリング』『グラン・トリノ』と2作公開されているが、どちらも完成度が高い。今となっては彼の作品というだけで間違いはないと思える。そしてどれもが悲劇的で胸を抉る。結論が悲惨なのだ。しかし、現実を見ない可能性の低い希望を抱かせるよりも、痛烈な問題提起になる。
 心の弱いボクはデイブに強い感情移入をした。つまり、ボクは哀しい悲惨な運命に導かれる? 今、改めて観直してみて、やはり公開当時以上に強く深く胸を抉られた。

◎作品データ◎
『ミスティック・リバー』
原題:Mystic River
2003年アメリカ映画/上映時間:2時間18分/ワーナーブラザーズ映画配給
監督:クリント・イーストウッド/原作:デニス・ルヘイン/脚本:ブライアン・ヘルゲランド/製作総指揮:ブルース・バーマン/製作:ロバート・ローレンツ, ジュディー・G・ホイット, クリント・イーストウッド/音楽:ニコラ・ビオヴァーニ/撮影:トム・スターン
出演:ショーン・ペン, ティム・ロビンス, ケヴィン・ベーコン, マルシア・ゲイ・ハーデン, ローレンス・フィッシュバーン

recommend★★★★★★★★★☆
favorite     ★★★★★★★★★☆

 第二次世界大戦前夜の1939年、戦火の迫るイタリアで、ユダヤ系イタリア人のグイドは、本屋を開業するために叔父を頼って友人とともに北イタリアの田舎町にやってきた。いつも笑顔を絶やさない陽気な性格の彼は、小学校の教師ドーラと駆落ち同然で結婚して息子ジョシュアをもうける。しかしジョシュアの5歳の誕生日、戦時色は次第に濃くなり、ついに戦火は彼らのもとに及んだ。北イタリアに駐留してきたナチス・ドイツによって、3人は強制収容所に送られてしまう。母と引き離され不安がる息子に対し、グイドは嘘をつく。「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだ」。絶望と死への恐怖が支配する中で、前向きなグイドの明るさが家族に奇跡を起こす。
 美しい人生を自らの手で築き上げていく男を、ユーモア溢れる空想的な描写で表現。監督、脚本、主演を務めたロベルト・ベニーニは、90年代のチャップリンと称賛され、イタリア映画でありながらその年のアカデミー主演男優賞、脚本賞、外国語映画賞を受賞した。ニック・ノルティとトム・ハンクスの一騎打ちと下馬評で噂されてた主演男優賞は、コメディのセンスをリスペクトする映画人から圧倒的な支持を得て奇跡の受賞となった。
 この作品では、単なるドタバタではなく第二次世界大戦とナチスドイツの背景の裏でひとりの女を愛し、家族を心から守ろうとする男の生きざまを見せつけてくれる。冒頭からしばらくは、ベニーニのあり得ない大袈裟な喜劇ぶりが鼻につく。しかしそれは、後半どこまでも前向きに明るく振る舞う気質の伏線だったのだ。罪のない嘘の美しさ、それで子供の夢さえもひっくるめて守ろうとする姿は胸を打つ。本当はコメディではなく、ドラマだ。結末もドラマの悲惨さを湛えている。しかし、この映画はコメディ作品として称賛を与えるべきだと思う。嘘がクライマックス、真実として悲惨な結果をもたらす。しかし、ジョシュアはこの時代を、父のおとぎ話のような嘘を、一生のいちばん大切な時間として、振り返り、ストップモーションでハッピーエンドに見える結末に仕上げている。世界でいちばん温かい嘘だ。誰がこの嘘を責めるだろう。この映画での彼の嘘は初めただのホラだ。いつしかそこに愛のエッセンスを加えたことで最も美しい嘘になる。エンディング、大人になったジョシュアの振り返るたったひと言の呟きのようなナレーション、これがこの映画を完璧なものに変えた。恋すること、生きること、それに懸命になったグイドに世界中の人々が笑い涙した。はたして、こんな感覚になった映画が過去にあっただろうか。それだから、これは悲惨な映画ではなく、「人生は美しい!」と題するほど絶対の自信を持って描かれた愛の物語になっている。
 ベニーニの父はベルゲン・ベルゼン強制収容所で2年間を過ごしている。その辺は彼の演技に真実味を与えているし、ロベルト・ベニーニとニコラッタ・ベラスキはベニーニ全作品で共演をしている、実生活でも夫婦だ。ベニーニ夫妻とジョシュア役のカンタリーニは、撮影に入る前に実際に寝起きを共にして家族愛を深めた。第264代ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は好きな映画として『ガンジー』や『シンドラーのリスト』とともに本作を挙げているのが素晴らしい。
 単なる愛を描いた映画ではなくそこに宗教、人種、民族、戦争、差別、教育、親子、夫婦、さまざまな人間の根源的な問題に喚起しようとする、哲学的な深みを持つ作品だ。ボクらの持つ生活や社会での悩みなど、「人生は美しい!」と言って、笑って泣いて吹き飛ばしてしまおう、と思える。

◎作品データ◎
『ライフ・イズ・ビューティフル』
原題:La Vita e Bella(英語タイトル:Life Is Beautiful)
1997年イタリア映画/上映時間:1時間57分/松竹富士・アスミックエース配給
監督:ロベルト・ベニーニ/脚本:ヴィンセンツォ・チェラーミ, ロベルト・ベニーニ/製作総指揮:マリオコトネ/製作:エルダ・フェッリ, ジャンルイジ・ブラスキ/音楽:ニコラ・ビオヴァーニ/撮影:トニーノ・デリ・トリ
出演:ロベルト・ベニーニ, ニコレッタ・ベラスキ, ジョルジオ・カンタリーニ, ホルスト・ブッフホルツ, ジュスティーノ・ドゥラーノ

recommend★★★★★★★★★★
favorite     ★★★★★★★☆☆☆

 アイルランドの首都ダブリンの労働者階級に生まれたら成功する道は少ない。プロサッカー選手か、プロボクサーか、ミュージシャンか。そんなダブリンで、本物のソウル・バンドを結成するべく集まったジミーとデレク、アウトスパン。彼らは新聞広告でメンバー募集をかけたが、次々とやってくる候補者はどれも変なのばかり。 結婚式で泥酔して歌っているところをスカウトされたデコ、聖歌隊出身の3人のコーラスガール、世界中の有名アーティストと共演してきたとはったりをかますジョーイ・ザ・リップス、デコとケンカして脱退したビリーの後に入った用心棒として雇ったはずのミッカー、寄せ集めながらも12人のバンド「ザ・コミットメンツ」の活動がスタートした。素人同然の彼らが結成したバンド“ザ・コミットメンツ”は練習場所にもこと欠く困難や挫折を乗り越えて、次第に魂の音楽を作り上げてゆく。しかし、女たらしのジョーイはコーラスの女の子たちに次々と手を出し、デコは益々増長して、音楽の方向性が違ってきたメンバーも出てきた。 めきめきと実力をつけレコード会社から契約の話が来るところまでこぎつけながらも、メンバーの心は次第にばらばらになっていった。
 ロディ・ドイルの小説『おれたち、ザ・コミットメンツ』の映画化作品。ダブリンを舞台に、ソウル・バンドに賭ける若者たちを描く。『スナッパー』『The Van』と続くロディ・ドイル原作の"バリータウン3部作"のひとつ。この原作を基に、アイルランドの首都、ダブリンを舞台に、素人のソウル・バンド“ザ・コミットメンツ”に集まった若者たちの青春像を描いた音楽ドラマ。
 『フェーム』『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』『バーディ』『ミシシッピ・バーニング』など斬新な感覚の作品を世に送り続けているアラン・パーカー監督の90年代の代表作。その後も『エビータ』などジャンルにとらわれない秀作を撮り続けている彼だが、この『ザ・コミットメンツ』は優れた音楽映画であると同時にアイルランドの素晴らしい青春群像ドラマでもある。出演者は全員オーディションで選んだアイルランド出身のミュージシャンというだけあって、ライブシーンは本物の迫力。夢に向かってひた走る若者たちに熱い共感を覚えずにはいられない。イギリスのアカデミー賞で監督賞、作品賞、脚色賞、編集賞4部門受賞、東京国際映画祭で監督賞受賞のほかオスカーでは編集賞にノミネートされた。
 中で「アイリッシュはヨーロッパの黒人だ」「ソウル・ミュージックをやるには、俺たちシロすぎないか?」との問いにジミーはこう答えるシーンがある。「アイルランド人はヨーロッパの黒人だ。 ダブリンっ子はアイルランドの黒人だ。ダブリン北部に住んでる奴はダブリンの黒人だ」―あまり、ヨーロッパの差別には詳しくないのだけれど、ヨーロッパ、とりわけイギリス人差別と偏見を受けているアイルランド人。 その中でも特に貧しいダブリン北部に住んでいる人々は低所得層向けの公営住宅に住み、建物から建物へとヒモが渡され、そこに洗濯ものが所狭しと干されている。そんな場所に住む彼らは、黒人の中の黒人、ソウル・ミュージックを演奏するにふさわしい連中という意味だ。ダブリンの中心を流れるリフィー川と男たちを言い表した「ザ・リフィー・ラッズ」、そして「ザ・ノースサイダーズ」と、北部住民であることにこだわっている彼らは、バンドのメンバーを集めるにあたっても「サウスサイダーズはお断りだと、バンド名も「ザ・コミットメンツ」というバンド名を決めた。「委託」という意味のこの単語には刑務所への「収容」という意味のスラングもある。
 また、これは音楽と青春だけの映画のようにも見受けられるが、差別問題のほかに宗教の問題も隠れている。トランペッターのジョーイは、有名アーティストたちと共演したことがあると、真実とも嘘ともとれることを言う。アイルランドにはソウルが必要だと神に言われた、ソウルがあれば国民同士で殺しあわずにすむと、 カトリック系住民とプロテスタント系住民が長年にわたって殺しあってきた北アイルランド紛争のことを言ってたりもする。
 当時、音楽を目指していたボクはこの映画を見て虜になった。今は趣味となり諦めてからなんとなく、映画の評価を冷静に判断できてなかった気がする。公開当時の方が感動した。しかし、やはりボクは音楽映画に評価が甘い。

◎作品データ◎
『ザ・コミットメンツ』
原題:The Commitments
1991年イギリス・アイルランド合作映画/上映時間:1時間58分/20世紀フォックス映画配給
監督:アラン・パーカー/原作:ロッディ・ドイル/脚本:ディック・クレメント, イアン・ラ・フレネ, ロディ・ドイル/製作総指揮:アーミアン・バーン・スタイン, トム・ローゼンバーグ, ソーター・ハリス/製作:ロジャー・ランドール・カトラー, リンダ・マイルズ/音楽:ウィルソン・ビケット/撮影:ゲイル・タッターサル
出演:ロバート・アーキンズ, マイケル・アーニー, アンジェリン・ボール, マリア・ドイル, デイブ・フィネガン

recommend★★★★★★☆☆☆☆
favorite     ★★★★★★★★☆☆