インドの大都市ムンバイの中にある世界最大規模のスラム、ダーラーヴィー地区で生まれ育った少年ジャマール。テレビの人気クイズ番組「コウン・バネーガー・カロールパティ」(クイズ$ミリオネア)に出演し、数々の問題を正解、ついに最後の1問にまで到達した。しかし、無学であるはずの彼がクイズに勝ち進んでいったために、不正の疑いがかけられ、警察に連行されてしまう。そこで彼が生い立ちとその背景を語り始める。
 インド人作家のヴィカス・スワラップの小説「ぼくと1ルピーの神様」を『トレインスポッティング』の斬新で粗雑な印象を受けたダニー・ボイルが映画化。最初に昨年第33回トロント国際映画祭観客賞を受賞してから、第66回ゴールデングローブ賞作品賞を経て、第81回アカデミー賞では作品賞を含む8部門を受賞した。最多部門ノミネートの『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の最多ノミネートを圧倒する結果となった。結果、作品賞だけでも14以上、監督賞で20以上、演技賞こそほとんどないが、スタッフ関係は数えだしたらきりがない。
 映画版は原作と比べると、ストーリーが大幅に変わっている。主人公の名前は原作ではラム・ムハンマド・トーマスとなっており、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒の名前が全部入った不思議な名前となっている。彼は孤児でイギリス人神父に育てられており、彼が半生を語る相手は警察ではなく、彼を警察から救出した女弁護士になっている。孤児である設定なので兄はいないため、映画版にある兄サリムが関わるギャングにまつわる部分は全て映画オリジナルである。原作に登場するサリムはラム・ムハンマド・トーマスの親友のイスラム教徒で、宗教的迫害によって家族が殺害されたのはこのサリムである。また、主人公が恋に落ちる少女の名前はニータで、彼女は主人公が大人になってから娼館で出会った娼婦である。また、ラム・ムハンマド・トーマスが英語を流暢に話せるようになった経緯、列車強盗の話、往年の女優の家で働いた話などは映画版ではカットされている。
 この映画に出演した2人の子役ルビーナー・アリーとアズハルッディーン・イスマーイールの両親が「十分な出演料を受け取っていない」と発言しており、2人の出演料はアズハルッディーンは年間約24万円、ルビーナーは年間約7万円だという。これに対し製作側は、彼らの出演料は同地区の大人が受け取る平均年収の3倍であり、彼らの教育費、生活費、医療費などをまかなうためのファンドもあると反論している。それに加え高校卒業後にファンドとは別に約1300万円が支給されるとしている。ギャラを一括で支払で起こりうる様々なリスクに配慮したためと説明しており、子役の報酬が周囲の大人に搾取されないためだとみられている。またイギリスの大衆紙は、ルビーナー・アリーの父親がアラブ人富豪に扮する記者に約2900万円で彼女の養子縁組を持ちかけたと報じている。父親はこの疑惑を否定したが、別居中の母親が警察に訴えたため同日逮捕されたという経緯があり、人身売買の嫌疑もかけられたりしている。人気クイズ番組という華やかな舞台を借り、ひとりの少年を通して、近代化を遂げるインドで今なお子どもたちを苦しめ続けている社会問題をあぶり出した本作。そのなかで、クイズの出題者を演じている俳優アニル・カプールが、自身が親善大使として支援する国際NGOプランの出生登録プロジェクトに出演料の全額を寄付した、という美談もある。
 様々な苦難を乗り越えてのオスカー受賞だったわけだ。そんなエピソードは関係なく、我々は単に映画としての出来を楽しめばいいわけだ。この映画の舞台となっているクイズ番組の1問1問に彼の過去・背景が関係している。その1問ごとと過去の映像が錯綜して展開してゆく。その裏に隠された人生模様には社会問題があぶり出され、感動を超えた戦慄を覚える。たかが、クイズ、みのもんたとの駆け引きを想像していたとしたら大間違いだ。ラスト、インド映画らしさも醸し出して、何とも悲惨だが痛快で素晴らしい映画だと思う。最初、オスカーで主題歌賞のノミネートを知ったとき、この映画の何とも滑稽なサウンドが2曲もノミネートされ、『レスラー』のブルース・スプリングスティーンの名曲が外れて驚いたが、映画の中に溶け込むとなんて映画を引き立たせる音楽なんだと感心した。ま、とにかく作品賞に当然だと思わせる作り、必見だ。

 
◎作品データ◎
『スラムドッグ$ミリオネア』
原題:Slumdog Millionair
2008年イギリス映画/上映時間:2時間0分/ギャガコミュニケーションズ配給
監督:ダニー・ボイル/原作:ヴィカス・スワラップ/脚本:サイモン・ビューフォイ/製作:クリスチャン・コルソン/音楽:A・R・ラフーマン/撮影:アンソニー・ドッド・マントル
出演:デーヴ・パテール, マドゥル・ミッタル, フリーダ・ピントー, アニル・カプール, イルファーン・カーン
 
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