マヌエラは38歳の移植コーディネーター。女手ひとつで育ててきた息子のエステバンとマドリッドで暮らしていた。息子は作家志望で、母親のことを書こうとしていた。しかし母のすべてを書くには、大事なことが欠けていた。彼は父親について母から何も聞かされていなかったのである。エステバンの17歳の誕生日、ふたりは大女優ウマ・ロッホが主演する「欲望という名の電車」の舞台を観に行く。それは20年前にアマチュア劇団にいたマヌエラが夫と共演した思い出の芝居だった。彼女はこれまで触れずにきた父親のことを遂に息子に話そうと心に決めていたのだ。だが終演後、ウマ・ロッホにサインをしてもらおうとして彼女の車を追いかけたエステバンは、脇から飛び出した車にはねられてしまう。目の前で息子を失い、絶望するマヌエラは作家を志していたエステバンが肌身はなさず持ち歩いていたノートに書かれた彼の最期の言葉を読むのだった。「昨晩、ママがはじめてぼくに昔の写真を見せてくれた。芝居をやっていた頃の写真だ。ところが、写真の全ては半分に切られていた。切られた半分はお父さんにちがいない。僕の人生が同じように半分失われている気がする。お父さんに会いたい。たとえお父さんがママにどんなひどい仕打ちをしたのだとしても。」マヌエラは、息子に父親が誰であるかをとうとう言い出せなかった。彼女は失った息子の最期の想いを伝えるため、仕事を辞め、かつて青春時代を過ごしたバルセロナへ旅立つ決意をする。マドリッドからバルセロナへ。息子の死を別れた夫に知らせようとマドリードからバルセロナへ来たマヌエラは、ふとしたことからウマの付き人になる。同時に、妊娠したシスター・ロサと同居を始める。ロサは実はマヌエラの元夫の子どもを妊娠していたのだ。赤ん坊が生まれるが、エイズに感染していたロサは死ぬ。葬式の席で、すっかりゲイになった夫に再会し、息子のことを話すマヌエラ。ロサの母親が赤ん坊がエイズ感染していることを恐れるので、新しい息子を守るため彼女は再びマドリードに戻る。数年後、エイズウイルスを克服した子どもを連れ、またバルセロナへやってくるマヌエラ。今度の旅は希望に満ちた旅だった。息子の死の原因となった女優、性転換した売春婦、エイズを抱えて妊娠した尼僧、女性となった元夫など、様々な人々との関係を通して、人生への希望を取り戻していく。
 最愛の息子を事故で失ってしまった母親の、死を乗り越える魂の軌跡を中心に、様々な人生を生きる女たちの姿を描く人間ドラマ。監督・脚本はのペドロ・アルモドバル。アカデミー外国語映画賞、カンヌ国際映画祭監督賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞外国映画賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞外国映画賞、英国アカデミー賞監督賞・外国語映画賞、ヨーロッパ映画賞作品賞・女優賞、放送映画批評家協会賞外国語映画賞、セザール賞外国映画賞、ゴヤ賞最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演女優賞・最優秀編集賞・優秀音楽賞・最優秀音響賞・最優秀制作チーフ賞、ゴールデン・サテライツ賞最優秀外国語映画賞、ニューヨーク映画批評家賞最優秀外国語映画賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞最優秀外国語映画賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国語映画賞、ボストン映画批評家協会賞外国語映画賞、ヨーロッパ映画賞最優秀作品賞・最優秀主演女優賞・最優秀観客賞監督部門、サン・セバスティアン国際映画祭国際映画批評家連盟賞、ブリティッシュ・インディペンデント映画賞最優秀外国語映画賞、全米ブロードキャスト・フィルム批評家協会賞最優秀外国語映画賞、TIME誌年間映画ベストテン 第1位、年エンターテイメント・ウィークリー誌年間映画ベストテン第1位と、数々の賞を総なめにしている。世界中のマスコミから“キャリアの集大成、文句なしの最高傑作”と絶賛を浴びた本作は、愛し、傷つき、悩みながらたくましく生きていく女たちを、独特のユーモアと洗練された映像で描き続けている。全女性に贈られた人生賛歌だ。主役の母マヌエラにアルゼンチンを代表するトップ女優セシリア・ロス、往年の大スター、ベティ・デイビスを彷彿とさせる大女優役にスペインの名花マリサ・パレデス。そして黒い瞳の修道女にペネロペ・クルスなど新旧のラテン諸国を代表する3人の女優が競演。至高の映画『イヴの総て』や、『欲望という名の電車』が劇中に巧みに引用している。タイトルの“All about My Mother”は劇中に出てくる映画『イヴの総て』の原題“All about Eve”を文字ったものでもある。
 マヌエラは、かつてアマチュア劇団に所属していた過去を持ち、映画の冒頭、移植セミナーのシュミレーションのシーンで、息子の死を知らされる母の役を見事に演じる。また後には代役としてプロの舞台にも立ってみせる。俳優ではないが演じる能力を持った人々についての映画を作ろうというのが最初のアイディアだっと監督は語っており、演じる存在としての女性が重要なテーマのひとつになっている。このテーマのルーツは、アルモドバルの子供時代の想い出にまで遡る。『オープニング・ナイト』のジーナ・ローランズ、前述の『イヴの総て』のベティ・デイビス、『L’important c’est d’aimer』のロミー・シュナイダーの3つの映画の女優たちの役どころの精神が、『オール・アバウト・マイ・マザー』の登場人物たちに、煙草、酒、絶望、狂気、欲望、無力感、葛藤、孤立、活力、理解を染みこませている。途中親友のアグラードが公演中止を観客に告げた後、身の上話をする感動的な場面は、昔実際に起きたアルゼンチンの女優ロラ・メンビブレスの出来事に基づいている。
 マヌエラはいつも逃げていた。列車に乗って、数え切れないトンネルを抜けて、最初はバルセロナからマドリッドへ、17年後にはマドリッドからバルセロナへ。そしてその数ヶ月後には再びバルセロナからマドリッドへ。最初の逃亡の時は息子のエステバンをみごもって、息子の父親から逃げていた。父親の名もエステバン。2回目は彼女は息子のエステバンの写真とノートを持っていく。父のエステバンを探し、息子の死を告げるつもりだった。父は息子の存在を知らない。マヌエラは妊娠を知るとすぐに彼から逃げ2度と会いに行かなかったからだ。息子に父は母よりも大きな胸を持ち、ロラという名で呼ばれていたなどと、どうして息子に話せようか。長年の沈黙が犯罪のように女の良心に重くのしかかる。マヌエラはエステバンの父を探すことを自分に命じる。それが彼女の救いになる。彼女はマドリッドには居られない。息子が生き、死んだ街だから。彼女は人々と出会い、バルセロナに住む理由ができる。だが、人々のことを知り過ぎた彼女には逃げる理由もできている。再びバルセロナからマドリッド行きの列車に乗る彼女。その胸には、生後数ヶ月の3番目のエステバンがしっかり抱かれている。彼女はその子を祖母の敵意から守らなくてはならない。赤ん坊はHIVに感染している。祖母はその子に引っ掻かれるだけで感染させられると思っているのだ。2年後、第3のエステバンはウイルスを抑制する力を持っており、マヌエラは彼を調べてもらうためカン・ルチでの会議に彼を連れていくことにする。こうして彼女は第3のエステバンを膝に乗せ、再びバルセロナへ向かう。彼女は子供にパンを与えながら、自分の逃亡の物語を語る。子供は理解しているかのように聞いている。彼女は子供の名前がなぜエステバンなのか、両親はどんな人でどんな風に亡くなり、なぜ彼女が母親となったのかを説明する。バルセロナの祖母も今では心を改めた。エステバンは祖母を愛さなくてはならない。彼女は彼が生まれる前にいたふたりのエステバンのことも教える。この子が大きくなって好奇心が膨らんだら、どんな質問にも答えよう。答えを知らないときは思いつきを話そう。だって即興は得意だもの、と彼女は誇らしげに言う。なろうと思えば女優にだってなれた。でも彼女の唯一の天職は子供たちの世話をすることだった。彼女は子供をしっかり抱きしめる。この映画の持っている魅力はあまりにも多すぎて、上手く整理して語れない。これが100分の中に凝縮されている。是非みんなに観てほしい映画のひとつだ。

◎作品データ◎
『オール・アバウト・マイ・マザー』
原題:Todo sobre mi madre(英語タイトル:All about My Mother)
1999年スペイン映画/上映時間:1時間41分/ギャガコミュニケーションズ・東京テアトル配給
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル/製作総指揮:アグスティン・アルモドバル/製作:エステル・ガルシア/音楽:アルベルト・イグレシアス/撮影:アフォンソ・ビアト
出演:セシリア・ロス, マリサ・パレデス, ペネロペ・クルス, エロイ・アソリン, アントニア・ファン・フアン 
  

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