ロンドンで働くセバスチャンは、父親レミが癌を患っているとの知らせを聞き、故郷のカナダのモントリオールに帰国した。歴史学教授であったレミは頑固で酒好き、更に女癖が悪い父をセバスチャンは反面教師として育ち、自分はあんな人間にはなるまいと生きてきたのだった。しかしセバスチャンは母に頼まれ、父親の最期の日々を楽しいものにしようと手を尽くした。憎まれ口ばかり叩くレミだが、世界中から集まった友人たちに会い、笑顔を取り戻す。痛みを和らげるため、医者に秘密でヘロイン治療を始めたレミだが、病状は次第に悪化し、セバスチャンは、レミを湖畔の別荘に移すことに。そして遂に、別れの時がやってきた。
 残り少ない人生を謳歌する男と、彼を支える家族や友人達の交流が胸を打つ感動作。監督はカナダの巨匠、ドゥニ・アルカン。ベテラン俳優、レミー・ジラールが偏屈な病人に扮し、シリアスな題材を笑い飛ばす。彼の息子役の人気コメディアン、ステファン・ルソーの熱演も光る。カデミー賞外国語映画賞を受賞し、他にもセザール賞作品賞・監督賞・脚本賞、カンヌ国際映画祭女優賞(マリ・ジョゼ・クローズ)・脚本賞などを受賞。1986年の『アメリカ帝国の滅亡』の続編にあたる。映画解説パンフレットによれば、原題の直訳「蛮族の侵入」が意味するものは、病気であり、新大陸を侵略した白人であり、イスラム教徒を敵視するアメリカ人であるそうだ。
 末期癌で死を目前に控えた父と息子の物語である。享楽的社会主義者を自任する大学教師レミは、父を反面教師に育ち、自分の10倍の年収を稼ぐ息子を「資本主義の申し子」と罵るが、実情はすっかり頼り切りだ。息子は金の力ですべて解決する。病院の買収や鎮痛剤としてのヘロイン調達も仕切り、世界中にいる父の友人や愛人たちを枕元へ呼び寄せる。再会を果たした左翼のインテリ学者たちはシニカルな軽口を叩き、ダンテからプリモ・レヴィまでさまざまな名を口にしつつ、会話は際限のない自嘲に終始する。真理を求め続けながら何も見つけられず、子供っぽさを内包したまま老境を迎えた彼らと、社会人としてはるかに有能な息子との対比には、監督の複雑な思いが見てとれる。日忙しく暮らしている現代人には、「自分の最期をどう生きるか?」とは、疎遠な疑問かもしれない。しかし、最後の瞬間は誰にでもやってくる。どうせなら、大好きな人たちに囲まれて笑顔で過ごしたい。できれば、「愛している」と言ってほしい。『みなさん、さようなら』は、死の瞬間まで生きる喜びを感じさせてくれる、笑いと機知にあふれたコメディ作品。彼らのスマートでユニークな会話は、病気など忘れさせる明るさだが、ふと本音を漏らすレミの姿に、誰もが自分の人生を振り返らずにいられなくなる。レミ役のレミー・ジラールの外見が健康的すぎるのはさておき、泣きと笑いのエピソードを交互に積み重ねる手法は凡庸、しかし、観る側はあらゆる立場から別れを見つめ直す機会が与えられる。「怖いんだ」「死ぬ意味を見つけなければ」というレミのつぶやきに、なんの悔いもなく満ち足りた死とは、実はひどく寂しい最期なのではないか、と思った。2002年以降の多くの作品同様、本作も9・11について触れている。ニュース映像や政治色の強いせりふもあるが、それとは別に歴史学者としてのレミと時代を控えめに重ねた扱いには独自の視点を感じた。登場人物たちはドゥニ監督の作品『アメリカ帝国の滅亡』と同じで、続きとされているが、予め観ておく必要はない。むしろ、『みなさん、さようなら』を見た後で『アメリカ帝国の滅亡』を観ると17年の月日を遡った彼らの姿に、時の流れというものを強く感じるはずだ。先日取り上げた『海を飛ぶ夢』に似た印象を受けるが、こちらの方がユーモラスで風刺の効いた往生物語という感じだ。金の力で友と愛人たちに囲まれ、息子に世話されて苦しみを除去して死んでいく、この無痛文明の極地をいくかのような死に方は果たしてよいことなのか。ここが問題提起となる映画だが、まず日本ではありえない最期、誰もが避けて通れない「死」を観て目てみると、鑑賞後、涙が溢れそうになる。病と闘わなかったレミ。どちらがいいか悪いかではなく、これもまたひとつの選択だと思いながら観終えた。ラストシーンはさわやか。レミが最後まで愛着をもった知的世界が若い世代に引き継がれ、同時にヘロイン中毒の若者を再生させることを予感させる。

◎作品データ◎
『みなさん、さようなら』
原題:Les Invasions barbares(英語タイトル:The Barbarian Invasions)
2003年カナダ・フランス合作映画/上映時間:1時間39分/コムストック配給
監督・脚本:ドゥニ・アルカン/製作:ドゥニ・ロベール, ダニエル・ルイ/音楽:ピエール・アヴィア/撮影:ギイ・デュホー
出演:レミー・ジラール, ステファン・ルソー, ドロテ・レミマン, マリナ・ハンズ, マリ・ジョゼ・クローズ
 
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