冬のある日、フランスの小さな村に謎めいた女性ヴィアンヌが娘アヌークを連れて越してきた。レノ伯爵の猛威で因習に凝り固まったこの村の人々の好奇の目が向けられる中、母娘は村人が見たこともないような美味しそうなチョコレートであふれた店を開く。客の好みにピタリと合わせて勧められるチョコレートは人々を虜にし、ヴィアンヌの明るく朗らかな人柄も相俟って、村人はカトリックの断食期間にも教義に反しチョコレートを食べていた。しかし、断食の時期、ミサにも参加しようともせず、私生児を連れていたヴィアンヌは、敬虔な信仰の体現者で村人にもそうであることを望む村長のレノ伯爵の反感を買ってしまい、ビアンヌは村から追放されそうになる。そんな時、ジプシーの青年ルーの船が村にやってきた。やがてヴィアンヌは、村に一時的に滞在しにやって来たルーと思いを交わす。だが、村長はヴィアンヌと楽しそうな村人たちの様子に苛立ちを募らせ、老女アルマンドの誕生日パーティー中、ルーの船は放火され、ジプシーの一行は村を出ていく。そして疲れて眠ったまま息を引き取ったアルマンドの葬式が続く中、ヴィアンヌは荷造りをして、次の土地に移るべく、嫌がる娘を引っ張って出ていこうとするのだった。
 不思議なチョコレートを売る母娘が因習に閉ざされた村を幸せに導くファンタジック・ロマン。宗教と人間関係の複雑な絡み合い、そして大人の事情に飲み込まれている子どもたち、また、愛する人を遠く思い続ける大人たちの感情が秘められた映画である。監督はラッセ・ハルストレム。本当にこの人の映画はどれも好きだ。安心して見ていられる。ロバート・ネルソン・ジェイコブスの脚本がサン・ディエゴ映画批評家協会最優秀脚色賞を受賞した。アカデミー賞で5部門、ゴールデングローブ賞で4部門のノミネーションを受けたが、受賞には至らなかった。
 全編に渡って登場するおいしそうなチョコレートの数々は見どころのひとつだ。しかも、そのチョコレートが、登場人物それぞれの悩みを解決し、幸せに導いて行く。そして彼女自身もこの村で、放浪の旅に終止符を打つ契機を見付ける。クライマックスではグリルされたチキンやラムにチョコレート・ソースがかけられるが、それを食べる登場人物たちのその陶酔の表情が本当においしそうに見える。肉にチョコレートをかけるってどんな味なんだろうと思ってしまうが。おいしそうなチョコレートに眼を奪われ、映画を楽しんでいるうちに、いつのまにか暖かく幸せな気持ちに包まれて見終えられる。
 このユニークな物語の核心が、一風変っており予想出来ない、人々の心のふれあいに対する讃歌だ。人生の美味しい瞬間を探し求める点、そしていかに失意の日々から人が立ち直るかを描いている点に惹かれる。快楽にふけることを許容するだけではなく、人間の弱点や気まぐれを大きく受け入れる寛容さを求めることこそこの物語が伝えるテーマであると思う。人生を通して絶え間なく起こる伝統と変化の衝突の物語。そこではまた、他人にその生活や信条から抜け出すことを許さない不寛容な生き方の帰還が描かれている。結婚の失敗、家族のすれ違い、宗教から生まれる伝統や統制、敬虔の念、気難しい自立心、無鉄砲で優しい旅人、酒におぼれる夫、作品が思い描くランスクネは、様々な人間の存在する、人間的なトラブルと歓喜の両方が存在するファンタジーの村だった。ちなみにこの町は原作者が作り上げた架空の町だ。
 題材がチョコレートなだけに表面上は柔らかい空気に包まれた映画だが、その実、かなり辛辣な心の悩みを抱える人々がたくさん出てくる映画でもある。割と悲惨なストーリーなのになぜか幸せな気分になれる。まあ、とにかくたまらなくチョコレートが食べたくなる映画だ。

◎作品データ◎
『ショコラ』
原題:Chocolat
2000年アメリカ・イギリス合作映画/上映時間:2時間1分/アスミックエース・松竹映画配給
監督:ラッセ・ハルストレム/脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス/原作:ジョーン・ハリス/製作総指揮:アラン・C・ブロンクィスト, メリル・ポスター, ボブ・ワインスタイン, ハーヴェイ・ワインスタイン/製作:デイヴィッド・ブラウン, キット・ゴールデン, レスリー・ホレラン/音楽:レイチェル・ポートマン/撮影:ロジャー・プラット
出演:ジュリエット・ビノシュ, ジョニー・デップ, ジュディ・デンチ, アルフレッド・モリーナ, レナ・オリン

recommend★★★★★★★☆☆☆
favorite     ★★★★★★★★☆☆

広告