米深南部ジョージア州で州立刑務所で死刑囚棟の看守を務めていたハンクは、黒人嫌いの父親バックから、人種偏見と看守の仕事を受け継いだ男。父の代からの南部の死刑囚棟看守ハンクは、父譲りの人種差別主義者。ハンクの考えに疑問を抱く息子のソニーは、看守になったばかり。黒人の死刑囚の夫ローレンス・マングローブの死刑執行が決まり、レティシアは息子と刑務所を訪れ、ローレンスに別れを告げた。ローレンス刑執行の日、任務を満足にこなせないソニーにハンクは怒りを爆発させた。その翌日、ソニーはハンクへの愛を口にしつつ、彼の目の前で自殺する。息子の死の衝撃から立ち直れないハンクは、ハンクは絶望し、看守を辞する。一方、処刑されたマスグローヴの妻レティシアは、息子タイレルが事故死するというさらなる悲劇に襲われる。死刑囚の夫と息子を相次いで亡くした黒人女性レティシアと出会い、お互いの喪失感を埋めるように愛し合っていく。だがやがて、レティシアは、ハンクが自分の夫を処刑執行した男だと知る。ショックを受け茫然とする彼女。しかしハンクと2人で、夜空の星を眺めながらチョコアイスを口に入れると、愛の感情を取り戻すのだった。
 孤独な白人の男と黒人の女が、深い喪失の淵から人生を取り戻そうとするラヴ・ストーリー。監督はこれが日本初公開作となるマーク・フォースター、非白人として初めてのアカデミー賞主演女優賞を受賞したハル・ベリー主演を演じた作品。黒人女性と白人男性の交流と人種への偏見問題も孕んだ恋愛をシビアに描いたドラマである。タイトルも含め、オリジナル英語のセリフと日本語訳との印象の差が大きいらしい。この辺、語学が堪能であるともっといろいろ感じ取れたかもしれない。原題の“Monster’s Ball”は“怪物の舞踏会”という意味で、死刑の執行前に看守達が行う宴会を指す。原題を完全に無視した邦題が付けられている。アカデミー主演女優賞のほか、ベルリン映画祭銀熊賞(女優賞)、ゴールデン・サテライト賞最優秀脚本賞、全米映画俳優協会賞最優秀主演女優賞、フロリダ映画批評家協会賞最優秀主演男優賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀主演女優賞・最優秀主演男優賞など数多くの映画賞を受賞している。
 家族全員が強固な偏見を持つことでしか親子の絆を確認できなかった差別主義者の死刑執行人と、差別される側に立たされるばかりか愛の矛先である息子を相次いで無残に剥ぎ取られる死刑囚の妻。自分の身を守ろうと必死になるほど彼らの心は傷つき乱される。しかし結局は心から流れる血の温もりですら愛しい。血が流れている間だけは生きていると感じることができる。心が死んでしまう前に、彼らはもう一度だけ人生をやり直してみようと一歩を踏み出す。静かだが深く、抑制されているが寡黙な感情表現が心の痛みを雄弁に物語る再生の物語。ラストに見せるハル・ベリーの表情が忘れられない。まるで不安で儚い表情だが、憎しみを諦め、将来への希望に縋りつくことを決意したかのような、茫然とした、しかし愛を取り戻した表情だったように思う。
 この作品は賞レースに候補となるような成功に導びかれたが、最大の要因は、ドラマの展開より登場人物の孤立の描写に焦点をあてた、監督の知的なアプローチにあると思う。深夜の人けのないダイナーに背中を丸めて入っていく男、カウンターの奥でぼんやり目をあげる女。立ち去る息子の後ろ姿を暗い室内から視線で追う父親。男と女、父と息子を隔てる距離が、こういった細やかな空間が象徴的にそれを描き出していると思う。主役のふたりが結ばれるクライマックス場面のカメラワークも、覗き見するような長回しで男と女の孤独な営みを見つめるのだが、突き放したような視点でとらえられるために、観る側は侘しい佇まいを嫌でも意識せざるを得ない。荒涼とした空気感に、ビリー・ボブ・ソーントンの抑制された表情がぴったりはまる。ファザコンのマッチョから救いを求める脆弱な男へ。役ごとに変幻自在な表現をできるのは、彼ぐらいかもしれない。そしてなんといってもチャンスをつかんだかのようなハル・ベリーの熱演にも大喝采だ。

◎作品データ◎
『チョコレート』
原題:Monster’s Ball
2001年アメリカ映画/上映時間:1時間51分/ギャガコミュニケーションズ配給
監督:マーク・フォスター/脚本:ミロ・アディカ, ウィル・ロコス/製作総指揮:マーク・ウルマン, マイケル・バーンズ, マイケル・パセオネック/製作:リー・ダニエルズ/撮影:ロベルト・シェイファー
出演:ハル・ベリー, コロンジ・カルフーン, ビリー・ボブ・ソーントン, ヒース・レジャー, ピーター・ボイル

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