ノルウェー船のクルーとして、世界中を旅して回ったラモン・サンペドロは25歳の夏、岩場から海へのダイブに失敗して頭を強打し、首から下が不随の身となってしまう。それ以来、実家のベッドで寝たきりの生活になったラモン。農場で懸命に働く兄のホセ、母親のような愛情でラモンに接するホセの妻マヌエラなど、家族は献身的にラモンの世話をしていたが事故から26年目を迎えた時、ラモンは自らの選択で人生に終止符を打ちたいという希望を出した。ラモンは、尊厳死を法的に支援する団体のジュネに出会い、その決断を重く受け止めた彼女は、彼の死を合法化するために女性弁護士フリアの援助を求めた。フリアは2年前に不治の病を宣告されており、ラモンの人柄と明晰さに感銘を受けた。フリアは無料で弁護し住み込みでラモンとコミュニケーションを取り、情報を集めた。そしてラモンとフリアは想いを寄せ合い始めていく。そしてもうひとり、テレビのドキュメンタリー番組を見てラモンに会いにやってきた子持ちの女性、ロサ。彼女も、彼の元をたびたび訪れるようになった。そうして尊厳死を求める闘いの準備を進める中、フリアが発作で倒れてしまう。やがてフリアが回復し、ラモンの家に戻ってきた時、深い絆を感じた2人は口づけを交わし、フリアは自分も植物状態になる前に自らも尊厳死を迎える決意をし、ラモンとともに誰も犯罪にならずに済むよう死の計画を立てる。約束の日はラモンの著作の初版が出版される日と決めていたが、フリアは夫の説得によって死の決意を翻してしまった。そしてラモンは、結局ロサの助けを借りて、海の見える彼女の部屋で尊厳死を選ぶ。一方フリアは、出版社が見つかりラモンの自伝が製本された頃、痴呆症の進行によって、ラモンの記憶を失くしてしまうのだった。ラモンに思いを寄せていたロサの協力の下、遠く離れた郊外で誰の殺人の罪にもならないように綿密に計画した、自殺計画をロサの手伝いのもと行うことにする。ビデオカメラをまわし、最後のメッセージを残し、硫酸カリを飲み死亡するのだった。
 “海を飛ぶ夢”とはスペイン語では“内なる海”というタイトルで映画化された。25歳の時に頸椎を損傷し、以来30年近くものあいだ全身の不随と闘った実在の人物、ラモン・サンペドロの手記「レターズ・フロム・ヘル」をもとに、尊厳死を求めて闘う主人公を描いたドラマだ。ハビエル・バルデムのメイクアップも話題になった。自らの死を望み、尊厳死を遂げるべく様々な問題や葛藤を描いたヒューマンドラマ。アカデミー外国語映画賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞、ヨーロッパ映画賞監督賞・男優賞受賞、インディペンデントスピリット賞外国映画賞、ゴヤ賞作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・主演女優賞など14部門、放送映画批評家協会賞外国語映画賞を受賞している。
 若手ながらスペイン屈指の監督として認められるアレハンドロ・アメナーバル。スペインが誇るトップ男優のオスカー俳優ハビエル・バルデム。しかし、テーマは“尊厳死”。バルデムは老け役に挑戦。アメナーバルはこれまでのようなオリジナルのストーリーと違い、実在の人物と出来事を基に映画化。この3つの難題により、平坦な感動作に陥らずに物語を描くことはとても難しいだろうとも思った。主人公の仕種や表情を思い出すだけで胸が痛くなる。首から上だけの演技、頭髪を薄くし、皺を加えた変貌ぶりは『ノーカントリー』の兇悪犯と同一人物とは思えない。彼が演じるラモンは首の骨を折って20年以上も寝たきり生活を送り、自ら尊厳死を選ぼうとする。その表情は、壮絶な体験をした者しかわからない、どん底にたどり着いた末に得た純真さを湛える。家族に怒鳴りもするし、初対面の女性に鋭い言葉を発して泣かせたりもするが、彼の言葉は芸術的で洞察力に優れており、辛辣だがユーモアにあふれている。ベッドの上の彼と、窓から外へ飛び立って海辺にたどり着く空想の彼、海に飛び込んだ若き日の彼の対比は、詩的なリズムを伴って豊穣なイメージをわかせる。

◎作品データ◎
『海を飛ぶ夢』
原題:Mar Adentro(英語タイトル:The Sea Inside)
2004年スペイン・フランス・イタリア合作映画/上映時間:2時間05分/東宝東和配給
監督・音楽:アレハンドロ・アメナバール/脚本:アレハンドロ・アメナバール, マテオ・ヒル/原作:ラモン・サンペドロ/製作:アレハンドロ・アメナバール, フェルナド・ボバイラ/撮影:ハビエル・アギーレサロベ
出演:ハビエル・バルデム, ベレン・エルダ, ロラ・デュエナス, クララ・セグネ, マヴェル・リヴェラ

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