1823年冬、ウィーンの精神病院でかつての宮廷音楽家アントニオ・サリエリは意外な告白を始める。「モーツァルトを殺したのは私だ」と。そして老人は自殺を図り、雪の降りしきる街を病院へと運ばれた。彼の名前はアントニオ・サリエリ。かつてウィーンで最も尊敬された皇帝ヨゼフ二世に仕える宮廷音楽家であった。やがて、彼の人生のすべてを変えてしまったひとりの天才の生涯、若くして世を去った天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトについてを語り始めた。神童としてその名がヨーロッパ中に轟いていたモーツァルトが彼の前に出現したときその運命が狂い出した。作曲の才能は比類なかったが女たらしのモーツァルトが、サリエリが思いよせるオベラ歌手カテリナ・カヴァリエリに手を出したことから、サリエリの憎悪は神に向けられた。皇帝が姪の音楽教師としてモーツァルトに白羽の矢を立てようとした時、選考の権限を持っていたサリエリはこれに反対した。そんな彼の許へ、モーツァルトの新妻コンスタンツェが、夫を音楽教師に推薦してもらうべく、音譜を携えて訪れた。コンスタンツェは苦しい家計を支えるために、何としても音楽教師の仕事が欲しかったのだ。譜面の中身は訂正・加筆の跡がない素晴らしい作品ばかりだった。ある夜の、仮面舞踏会。ザルツブルグから訪れた父レオポルド、コンスタンツェと共に陽気にはしゃぎ回るモーツァルトが、サリエリの神経を逆撫でし、天才への嫉妬と復讐心に燃えるサリエリは、若きメイドをスパイとしてモーツァルトの家にやった。皇帝が禁じていたオペラ「フィガロの結婚」の上演をモーツァルトが計画したのを機に復讐を実行に移そうとするサリエリ。サリエリがスパイから得た情報を皇帝に密告したとも知らず、モーツァルトはサリエリに助けを求める。それを放っておくサリエリ。やがて父レオポルドが死んだ。失意のモーツァルトは酒と下品なパーティにのめり込んでいく。そして金のために大衆劇場での「ドン・ジョバンニ」作曲に没頭していくモーツァルト。しかしサリエリは変装しモーツァルトにレクイエムの作曲を依頼し追い打ちをかける。金の力に負けて作曲を引き受けるモーツァルトの、精神と肉体の疲労は想像以上にすさまじく、「魔笛」上演中に倒れてしまう。コンスタンツェが夫のあまりの乱行に愛想をつかし旅に出てしまったために無人になった家に、モーツァルトを運び込むサリエリ。仮装した彼は衰弱したモーツァルトにレクイエムの引き渡しを迫る。サリエリは作曲の協力を申し出て、一晩かかってレクイエムを仕上げさせるが、翌朝、サリエリが強いた過酷な労働のためか、モーツァルトは息を引きとった。、1791年12月、モーツァルト35歳の若さだった。すべてを告白し、いまや老いさらばえたサリエリひとりが、惨めな生を生きるのだった。
 35歳の若さで逝った天才音楽家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトと宮庭音楽家アントニオ・サリエリの対決を通してモーツァルトの謎にみちた生涯を描く。製作はソウル・ゼインツ、監督は名匠ミロシュ・フォアマン。ピーター・シェーファーが舞台のために書いた脚本を自ら映画のために書き直した。凡庸な者が天才に抱くねたみと憎悪の裏側を、見ごたえたっぷりに描出している。従来のモーツァルト像を一新するT・ハルスの演技が絶品。1984年度第57回アカデミー賞・作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞のほかにも英国アカデミー賞4部門、ゴールデングローブ賞4部門、ロサンゼルス映画批評家協会賞4部門、日本アカデミー賞外国作品賞などを受賞している。2002年にディレクターズ・カット版が公開されている。
 溢れんばかりに流れる名曲群、舞台にはないミュージカル部分の追加、チェコのプラハでオールロケした美しい映像など、そのすばらしさは枚挙にいとまがない。2人の音楽家の精神的死闘は、見る者を極度に興奮させる。音楽にも負けず劣らず美しい撮影は、屋内はの数シーンに蝋燭の照明が使われ、ほとんどの屋外ロケは中世以来の古い町並みが現存するチェコの首都プラハで行われている。
 モーツァルトの才能を妬み殺害した、と語る年老いたサリエリの回想というスタイルをとっている。モーツァルト役のトム・ハルスはピアノを猛特訓し、多くの場面で代役や吹替え無しでピアノを弾いている。ネヴィル・マリナーのトレーニングを受け、マリナーに「彼が音楽映画の中で最もちゃんとした指揮をしていると思う」とまで言わしめた。参加を依頼されたマリナーは、「モーツァルトの原曲を変更しない事」を条件に音楽監修を引き受けた。
 「アマデゥス!」、ドラマの中でただ一度、ミドルネームを呼ばれたシーンが印象的。それまでの一般的なモーツァルト像からすれば、下品でイメージが損なわれ、多くの論争を呼んだ。サリエリの独白、神父様への告白を通じて繰り広げられた神童モーツァルトの華麗な宮廷へのデビューから、晩年の痛々しくも悲劇的な最後にいたるまで、克明に綴られる。ラストシーン、モーツアルトを殺したとして自殺を図ったサリエリが、施療院の回廊を歩き進む間のエンディングテーマ、ピアノコンチェルト20番第2楽章、ロマンツェ。無残なシーンの後に続いてのこのエンディグテーマは優美さの中に悲哀・情念が、深く刻まれたままエンドロールに。そして、このラストシーンでモーツァルトにまつわる謎はさらに深まるばかりにさせるのだ。

◎作品データ◎
『アマデウス』
原題:Amadeus
1984年アメリカ映画/上映時間:2間40分./ワーナーブラザーズ・松竹富士配給
監督:ミロス・フォアマン/原作・脚本:ピーター・シェイファー/製作総指揮:マイケル・ハウスマン, ベアティル・オールソン/製作:ソウル・ゼインツ/音楽:ネヴィル・マリナー/撮影:ミロスラフ・オンドリチェク
出演:F・マーリー・エイブラハム, トム・ハルス, エリザベス・ベリッジ, サイモン・キャロウ, ジェフリー・ジョーンズ

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