華北の美しい村。都会で働く青年ルオ・ユーシェンは、父の訃報を聞いてこの村に戻ってきた。母は、伝統の葬儀をすると言って周囲を困らせる。石のように頑なな母の真意とはなんだろう。その様子を見ながら息子は村の伝説となった父母の恋物語を思い出していた。移ろいゆく季節の中で「食」が伝え育む人間の絆。都会からやってきた青年に少女は言葉にできない想いをこめてお料理をつくっていた。青い小花の碗だけが恋人たちの気持ちを知っているのだ。男たちが選ぶ料理。少女は別な人に食べてもらいたくて、その人が青い小花のワンを手にしてくれることを望む。都会からやってきた若い教師ルオ・チャンユーに恋して、その想いを伝えようとする18歳の少女チャオ・ディ。手作りの料理の数々に込めた少女の恋心は、やがて彼のもとへと届くのだが、時代の波が押し寄せふたりは離れ離れになってしまう。少女は町へと続く一本道で、来る日も来る日も愛する人を待ち続けた。そして、その二人の一途な想いが様々な人々の人生を切り拓いたことが母があれほどこだわった葬儀の日に明かになるのだった。
 監督は『あの子を探して』でヴェネチア映画祭グランプリ受賞に輝き、3大映画祭を制したチャン・イーモウ。『紅いコーリャン』『菊豆』など、情念とも見える原色の濃い映像美で衝撃を巻き起こした監督が、『あの子を探して』と本作で打ち出したのは全く新しい爽やかな人間賛歌。既に高い評価を得てきた自らの作風を打ち砕く出来栄えにヴェネチア映画祭とベルリン映画祭で惜しみない拍手と涙で賛辞を得た。主演は本作がデビューとなったチャン・ツィイー。この成功で、アン・リー監督作『グリーン・デスティニー』主演を射止めた。すでにファッション雑誌などの表紙を飾り、ポスト・コン・リー」として目覚しい躍進を遂げた。チャン・イーモウ監督のこだわりが感じられ、またコン・リーに代わってコンビを組める主演女優を発掘した作品といえる。
 料理で初恋を伝える少女とその想いに教壇の声で応える青年教師とが織り成す懐かしく、清廉な感動を運ぶラブストーリー。料理が伝えたその想いが、恋するふたりの、また多くの観客の切ない明日を拓いてくれた・。移ろいゆく四季の中に、都会と村をつなぐ一本の道を通して語られる親子2代の愛の物語。真心とはなにか、誠実とは何か、切々と瑞々しい映像美で描き出している。華やかで壮大な愛の物語が、大自然と風土に包まれて、厳しく胸に迫るものを感じる。
 監督によると、これは「中国の伝統である詩的な愛について、家族について、そして家族の間の絆についての物語」。監督はこの純粋なラブストーリーを語るに当たって、今までになくロマンティックな方法論を選んだ。原題をカラー、過去をモノクロにはせず、現在をモノクロ、過去をカラーで撮影し、クローズ・アップやスローモーション、オーバーラップといった技巧と音楽を駆使しながら叙情性を盛り上げている。やがて、シンプルな物語からは、恋人たちの熱い思いが立ちのぼってくる。少女の顔のみずみずしい表情が、けなげで一途な思いを雄弁に私達に伝え、素直な感動を呼び覚ます。そして、中国の悠久の大地。真っ白な雪原、黄金色の麦畑、青々とした森と白樺の林、丘陵に続く一本道。何気なくて懐かしい情景が、見る者の胸を打ち、涙を誘う。
 たくさんの映画を見てきてその素晴らしさを語るうち、このシンプルで単純な物語に打ちのめされた。村にやってきた20才の教師をひたすら愛する18才のディ。ただ、純粋なだけなのだ。それを100分近くにわたって表現し続ける。けれど、チャン・ツィイーの演じる無垢な純粋さに深く感どうするのだ。これほどの思いがあるだろうか。心を揺さぶる確かなものがある。そこには緻密な舞台、人選、演出、撮影手法があるのだが、それをこれ見よがしにしないただただ純粋な恋愛、これにとにかく脱帽した。

◎作品データ◎
『初恋のきた道』原題:我的父親母親(英語タイトル:The Road Home)
2000年アメリカ・中国合作映画/上映時間:1時間28分/ソニーピクチャーズ配給
監督:チャン・イーモウ/脚本・原作:パオ・シー/製作総指揮:チャン・ウェイピン/製作:ツァオ・ユー/音楽:サン・パオ/撮影:ホウ・ヨン
出演:チャン・ツィイー, チョン・ハオ, スン・ホンレイ, ルオ・ユーシェン, チャオ・ユエリン

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