アイオワ州の田舎町エンドーラ。生まれてから24年、この退屈な町を出たことがないギルバートは、重度の知的障害を持つ自閉症の弟アーニー、夫の自殺から7年間家から出たことがない過食症で250kgの母親、2人の姉妹の面倒を、大型スーパーの進出で売れなくなった食料品店で働きながら見ていた。毎日を生きるだけで精一杯、しかし日々の生活は退屈なものだった。彼は気晴らしに店のお客で、中年の夫人ベティ・カーヴァーと不倫を重ねていた。ある日トレーラー・ハウスで祖母と旅を続ける少女ベッキーが現れる。途中でトレーラーが故障し、ギルバートの町にしばらくとどまることになる。ベッキーの出現によりギルバートの疲弊した心にも少しずつ変化が起こっていった。そんな時、ベティの夫が死亡し、ベティは子供たちと町を出た。ギルバートは家族を捨てて彼女と町を出ていくことはできなかった。アーニーの18歳の誕生パーティの前日、ギルバートはアーニーを風呂へ入れさせようとして、いらだちから暴力を振るってしまう。いたたまれなくなって家を飛びだした彼は、ベッキーの元へと向かった。その夜、彼は美しい水辺でベッキーに優しく抱きしめられて眠った。その翌日、車の故障が直ったベッキーは出発した。華やかなパーティも終わり、最愛のアーニーが18歳を迎えた安堵からか、ボニーは2階のベッドで眠るように息を引き取る。母の巨体と葬儀のことを思ったギルバートは母親を笑い者にはさせないために、家に火を放つのだった。一年後、ギルバートはアーニーと、町を訪れたベッキーのトレーラーに乗り込む。姉や妹も自分の人生を歩きだした。アーニーが自分たちはどこへ行くのかと尋ねると、ギルバートは「どこへでも」と答えた。
 肉体的、精神的に傷つきやすい家族を守って生きる青年の姿を通して、家族の絆、兄弟の愛憎、青春の痛み、そして未来への希望を描いた心優しきヒューマン・ドラマ。劇作家だったピーター・ヘッジス初の小説を本人自身が脚色し、『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』のラッセ・ハルストレムが監督をした。出演はギルバートにジョニー・デップ、ベッキーにのジュリエット・ルイス、アーニーにレオナルド・ディカプリオが扮している。レオナルド・ディカプリオはこの作品でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。原題の“What’s Eating Gilbert Grape”は、「ギルバート・グレイプを困らせるもの」というような意味。原題の方が内容をよく顕しているわけだ。
 何といっても19歳だったディカプリオの自閉症の演技に圧倒される。ほのぼのとした話の中で強い存在感を見せつける。ディカプリオと母親の絶大な存在感の中で、ロマンティックでさわやかなギルバートとベッキーのピュアな恋愛が活かされてゆく。このあと、人気を不動のものにしてゆくディカプリオは演技派でありながらアカデミー会員に嫌われるような妙な自尊心と作品選びをしてゆくことになるが、このときは名子役と言える、他の人にはできない演技だったろう。『タイタニック』から彼は何かが変わってしまったように感じる。彼自身の演技ではないのかもしれないけれど。実際に自閉症の演技と言うと『レインマン』のダスティン・ホフマンや『アイ・アム・サム』のショーン・ペンの名演が思い浮かぶが、この年齢でこのふたりに引けを取らない演技だと思う。そして、いるだけの存在感で他を圧倒しているのが母親役のダーレーン・ケイツ。彼女は原作・脚本のピーター・ヘッジズが見つけて来た逸材だ。その圧倒的なふたりの存在感の中で、ごく普通のしかしいろいろな感情を抱えた好青年とその相手役は霞みがちになりそうなところを、本当はジョニー・デップとジュリエット・ルイスがピュアな作品にまとめているのだとい思う。過剰演技に隠れた確かな演技に評価をしたい。
 過食症の母、自閉症の弟、それを健気に支える青年、という設定からして、大体のストーリーは予測がつく。そこに、旅の途中に車の故障で少女が登場すれば、ストーリー展開のスリリングさはない。そこに求められるのは、それぞれの愛にどういう形で踏み込み、将来を形作っていくか、だ。夫の自殺後、外界から一切を切り離し、自分の殻に閉じこもって過食症になる母、笑われることを知りながら息子のために十何年振りかに家を出てみる母、そして、静かに死んでゆく母、その生き方を見ながらギルバートは自分の道を決めたのだと思う。父親が死んでから17年、アーニーも17歳、この変貌から得たもの、見つけた未来、それが、この映画のすべてだと思う。

◎作品データ◎
『ギルバート・グレイプ』
原題:What’s Eating Gilbert Grape
1993年アメリカ映画/上映時間:1間58分./シネセゾン配給
監督:ラッセ・ハルストレム/原作・脚本:ピーター・ヘッジズ/製作総指揮:アラン・C・ブロンクィスト/製作:メイア・テペル, バーティル・オールソン, デイヴィッド・マタロン/音楽:アラン・パーカー, ビョルン・イスファルト/撮影:スヴェン・ニクヴィスト
出演:ジョニー・デップ, ジュリエット・ルイス, メアリー・スティンバーゲン, レオナルド・ディカプリオ, ダーレーン・ケイツ

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