舞台はカナダのバンクーバー。夜に大学で清掃の仕事をしている23歳のアンは、夫のドンと、2人の娘とトレーラーハウスで暮らす主婦。17歳のファースト・キスの相手ドンと子供が出来て結婚、19歳で次女を出産した。夫は失業中。ある日ドンが2人の娘を学校に送って行ったあと、腹痛のために病院に運ばれ、検査を受けたアン。結果、癌であることが分かり、23歳にして余命2ヶ月の宣告を受けてしまう。その事実を誰にも告げないことを決めたアンは、夜明けのコーヒーショップで「死ぬまでにしたい10のこと」をノートに書き出し、ひとつずつ実行してゆく。そんな折り、コインランドリーで、コーヒーショップにいた男リーが声をかけてくる。帰宅して洗濯物を取り出すと中には1冊の本が入っており、電話番号を書いた紙が挟まれていた。恋人と別れたばかりというリーの家を訪ねたアンは、彼と恋におちる。優しい夫のドンには、隣の家に越してきた自分と同じ名前のアンが、新しいパートナーになってくれるよう密かに願う。次は10年間刑務所にいる父と面会。したいことをひと通り実行したアンは、母やドンやリー、そして子供たちが17歳になるまでの毎年分の誕生日用にメッセージをテープに録音して、この世を去ろうとしていた。
 ナンシー・キンケイドの短編を原作とするストーリーをスペイン出身のイザベル・コイシェが監督、脚本も担当した。製作総指揮は『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』などの監督として知られるスペインの名匠ペドロ・アルモドバルが加わり、かれのテイストが色濃く感じられる。アンを演じるのは『スイート・ヒア・アフター』『めぐりあう大地』などのサラ・ポーリー。撮影は「死者とのちょっとした取引」のジャン・クロード・ラリュー。出演は『めぐり逢う大地』のサラ・ポーリー、夫ドンには『デュエット』のスコット・スピードマン、コインランドリーで出会う恋の相手リーには『ウィンド・トーカーズ』のマーク・ラファロ、他にアマンダ・プラマー、レオノール・ワトリング、デボラ・ハリーらが脇を固める。
 随所に語られるナレーションでは、主人公を指す代名詞に“you”が使われている。観客が、この映画の主人公であり、余命が2ヶ月なのだ、と訴えかけるような効果が施されている。サラ・ポーリーの何気ない仕種とどこか冷めた視線が不思議な存在感を醸しだし、確かな、しかし自然な演技力で誰ひとり突出しないバランスを保って淡々と映画は終わってゆく。そして優しい視線を送る医師の存在も小さいながら印象深い。アンは録音したテープを医師に託す。悲観的でない優しさを表現するかのように使われるアイテム、ジンジャーの飴玉は実に効果的だと思う。
 死を悟った人間を主人公にした作品は、繰り返し描かれてきた。『フィラデルフィア』のように闘う人もいるが、この主人公は、まるで今夜の献立を考えるかのように、死ぬまでにしておきたい10個の項目を書き出す。『最高の人生の見つけ方』の余生の過ごし方も素晴らしかったけれど、無理やり楽観視させるような作りでもない。誰にも告げず、死の準備をするアン。「娘たちに毎日愛してると言う」「夫じゃない男と恋をする」「父に面会する」など。家族への愛情から不倫の願望まで、優しさと切なさとを含んだ女心が見える。だんだんと死に向かって受け入れていく表現力が素晴らしい。原題は「私のいない私の人生」、まるで風景のようだ。静かすぎる死へのレールを外れずに歩んでゆくアン。もしかして、他のどの映画よりも彼女は強かったのかもしれないと思う。
 余命を宣告され、泣きわめくこともなく、投げ出すこともなく、家族を思い、平然を装うとする。実に淡々と。悲しみや寂しさを全て乗り越えたわけではないのに、母親として、またひとりの女性として残りを生きることの充実感を見出していく。死ぬ気になると行動力が出る、そんな単純なことではない心の機微が美しい。

◎作品データ◎
『死ぬまでにしたい10のこと』
原題:My Life without Me
2003年カナダ・スペイン合作映画/上映時間:1間46分./松竹配給
監督・脚本:イザベル・コイシェ/原作:ナンシー・キンケイド/製作総指揮:ペドロ・アルモドバル, アグスティン・アルモドバル/製作:エステル・ガルシア, ゴードン・マクレナン, オグデン・ギャバンスキー/音楽:アルフォンソ・ヴィラロンガ/撮影:ジャン・クロード・ラリュー
出演:サラ・ポーリー, スコット・スピードマン, マーク・ラファロ, レオノーラ・ワトリング, デボラ・ハリー

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