1950年代のアメリカ。幼い頃から歌手として活躍していたジューン・カーターは、ジョニー・キャッシュにとって憧れの存在。そしてジューンもジョニーの才能を早くから認めていた。ジョニーは優秀な兄を持ち、父はろくでなしの方を持っていかなかったと神を罵る。ジョニーは深い傷を被いながらも、兵役に出てやがて家庭を持つ。しかし、生活は困窮を極め、ジョニーはレコード会社で飛び込みのオーディションを受け、合格、レコードを出せることになる。妻子を残し全米ツアーに出た彼は、憧れのカントリー歌手、ジュ-ンと運命的に出会う。音楽という共通の分野で尊敬し合っていた2人は、初めて言葉を交わした日から強い力で惹かれあっていく。何度かすれ違いで距離を置いた2人だが、さらに数年後に再会し、ジョニーの説得で2人は再びツアーを共にするようになる。レコード会社の移籍で100万ドルを手にする大スターとなっていたジョニーは、しかし、妻との関係もうまくいかずドラッグに溺れるようになっていた。そんなジョニーの精神的な支えになったジューンとジョニーはついに一夜を共にしてしまう。それでもジューンが恋愛関係を拒んだことで、ジョニーはますますドラッグに溺れていく。ステージ上で意識を失くす失態を演じ、ツアーは中止、さらにメキシコからドラッグを密輸して逮捕。そしてキャリアも家庭も失い、ひとりドラッグに溺れるジョニーだった。ジューンだけは決してジョニーを見捨てず、ただ独り、辛抱強く介抱を続けた。
 実在した1950年代のカリスマスター、ジョニー・キャッシュの半生に迫った真実の愛の軌跡。監督は『17歳のカルテ』や『アイデンティティ』のジェーム・マンゴールド。主演のジョニーを『グラディエーター』のホアキン・フェニックスが、ジューンをリース・ウィザースプーンが演じる。当時はアカデミー賞最有力候補作のひとつと騒がれた。
 栄光と挫折のはざまで、さまざまな困難を乗り越え結婚したジョニー・キャッシュとジューン・カーターとの十数年におよぶ愛のドラマを、魂の音楽とともにつズづる感動のラブ・ストーリーだ。注目すべきは歌のシーンをすべて吹替えなしで演じた主演のホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーン。プロ級の歌唱力(プロ級と言われたところには少し疑問が残るが)とその表現力が高く評価され、2人揃ってゴールデングローブ賞を受賞、アカデミー賞へはリース・ウィザースプーンのみ受賞し、ホアキン・フェニックスはノミネートにとどまった。ホアキン・フェニックスは体の奥深くから絞り出される魂の叫びのような低音ボイス。重厚で深みのあるキャッシュの歌と生きざまを魂のレベルで再現してみせた。闇に導かれる生き方を歌で表現したとも思える。実在のジョニー・キャッシュは2003年に他界している。ミュージシャンの栄光、ドラッグでの挫折、そして復活への道程、ありがちなミュージシャンの復活の物語に思えるが、最後まで印象的な、ジョニーの繊細さが後に残る。そしてこれもまた予想を超えるライブパフォーマンスをこなし、母として女としてのジューンの苦悩と強さを見事に演じ切ったリースウィザースプーン。ともに吹き替えなしで歌声を披露。2人の迫真の演技と真実のストーリーが観る者の心を打つ。ただのアイドルだと思っていたリース・ウィザースプーンの器用さには感服するが、ボク個人的には自分をも傷つけてしまうガラスの危うさと、周囲を強烈に惹きつける男性像の共存を魅せたホアキン・フェニックスの熱演が素晴らしい。
 兄が事故死して以来、キャッシュは自分が生きているのは何かの間違いだという悪夢に取り憑かれ、苦しみ続ける。誠実でナイーブで不器用な生き方と、苦しみから逃れたいという悲痛の叫びが、ホアキン・フェニックスの肉体と声を通して画面に炸裂する。優秀な兄リバー・フェニックスを持っていたホアキン・フェニックスは、兄に嫉妬しながらも、兄の死後、パニックに陥りながら、兄を今にも超えような俳優になった。そして、今回の役が兄を失って失意のどん底に落ちる男。しかもその男は、リバー・フェニックスと同じ、音楽を愛し、ドラッグに溺れたのだ。兄と自分を同時に体現したような映画。それが彼に熱演に火をつけたと思うのはボクだけだろうか。

◎作品データ◎
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』
原題:Walk the Line
2005年アメリカ映画/上映時間:2時間16分/20世紀フォックス映画配給
監督:ジェームズ・マンゴールド/原作:ジョニー・キャッシュ/脚本:ギル・デニス, ジェームズ・マンゴールド/製作総指揮:ジョン・カーター・キャッシュ, アラン・C・ブロンクイスト/製作:キャシー・コンラッド, ジェームズ・キーチ/音楽:T・ボーン・バーネット/撮影:フェドン・パパマイケル
出演:ホアキン・フェニックス, リース・ウィザースプーン, ロバート・パトリック, ジェニファー・グッドウィン, ダラス・ロバーツ

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