1952年、アメリカ北東部メイン州の町グレイヴズタウンで驚くほど小さな赤ん坊サイモンが生まれた。医師は長くはもたないと判断したが、サイモンは1週間、1年と生き続けた。両親はそんなサイモンを恥じ無視した。サイモンは「神様が小さな身体をくれたのはなにか使命があるからだ」と信じるようになる。サイモンが12歳になったころ、私生児としていじめられているジョーと親友になった。ジョーは、母親のレベッカが高校3年生の時に産んだ子、しかし誰が父親かは頑として口を閉ざしていた。サイモンは、レベッカを慕い、レベッカもサイモンを慈しんでいた。夏の日にサイモンがピンチヒッターとして野球の試合に出た時に事件が起きた。サイモンが打ったホームランボールがレベッカを直撃、レベッカは急死してしまったのだ。冬になり、ジョーは日曜学校のキャンプに参加した。サイモンはふとしたことからジョーの本当の父親が町の牧師であることに気づいた。同じころジョーも父親である牧師の告白を受けていた。帰りのバスにキャンプの参加者と一緒に乗り込んだジョーとサイモン。しかし、バスは事故を起こし、川に突っ込んでしまう。沈むバスの中、サイモンは窓の隙間をくぐって子どもたちを救出、危篤状態に陥る。瀕死の床でサイモンはジョーに「僕の小さな身体に意味があっただろう?」とつぶやく。小さな窓の隙間から救出を出来得たのはサイモンしかいなかったのだ。サイモンの死後、ジョーは少年時代の思い出を胸に、強く生きていくのだった。
 ある少年の数奇な運命を描く感動ドラマ。「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」で知られる現代米国文学の旗手、ジョン・アーヴィングのベストセラー「オーエンのために祈りを」を原作に同作の一部を初監督作となるマーク・スティーヴン・ジョンソンの監督・脚本で映画化したもの。主演はこの映画のために抜擢されたイアン・マイケル・スミスと「ロストワールド」のジョゼフ・マゼロ。脇を固める俳優陣は豪華でオリヴァー・プラット、デイヴィッド・ストラザーン、アシュレイ・ジャッドなどが主役の少年2人を引き立てるほか、ジム・キャリーがノー・クレジットでナレーターを兼ねて大人になったジョーとしてカメオ出演しているのが話題だった。
 ジョン・アーヴィングの小説は全体的に難解で映画化が困難とされている。「オウエンのために祈りを」もそのまま映画化できず、部分的に映像化したものだ。映画らしい独特の世界を持つ完成された作品となっているが、読んでいないけれどもきっと原作はもっと複雑なものだったように感じる。前半、自分の存在を理解するために、神様は計画があって自分を生かしているのだと言うサイモンの信心を尊重するレベッカと、ジョーのそれぞれ交錯している愛情の構図があり、それが崩壊したときの、バランスのずれを埋めるものと、ジョーの父親探し、サイモンに課せられた使命は何かを手繰りながらクライマックスへと話が展開してゆく。窓の大きさや潜っている時間の長さなどは出来すぎているが、見事な伏線として前半のテンポよいコメディタッチが活きてくる。この映画はいわゆる難病もの。しかし暗くなくウィットを利かせた作りになっているのがいい。ふたりの少年の好演も瞼に残る余韻を残してくれている。そして、物語半ばでいなくなってしまうレベッカを演じるアシュレイ・ジャットがとても美しい。またレベッカの恋人役のオリバ-・プラットもいい味を出している。滑稽さと悲哀さを混在させるアメリカの片田舎の風景がノスタルジックな記憶を呼び起こしてくれるような優しく美しい映画になっている。
 サイモンが自分のことを「神の道具」だと表現するくだりは、ちょっとコンプレックスなのかと感じたが、それは「英雄」へと繋がっていく実に力強い信念であって、「自分は生きていていいんだ」といちばん信じたいのはサイモン自身ではないかと感じた。少し宗教色が強く、理解のない人々や親の無関心など、理不尽な要素は多いものの、不自由な体を持つ主人公の映画にありがちな悲壮感はほとんどなく、むしろ、それを反発として自分の生きる意味を探し続けたサイモンの姿に感動できる。サイモンは死んでしまうのに見終わったあと、妙に爽快な気分にさせてくれる貴重な映画だと思う。

◎作品データ◎
『サイモン・バーチ』
原題:Simon Birch
1998年アメリカ映画/上映時間:1時間53分/ブエナビスタインターナショナルジャパン配給
監督・脚本:マーク・スティーヴン・ジョンソン/原作:ジョン・アーヴィング/製作:ローレンス・マーク, ロジャー・バーンバウム/音楽:マーク・シャイマン/撮影:アーロン・シュナイダー
出演:ジョセフ・マゼロ, イアン・マイケル・スミス, オリバープラット, デヴィッド・ストラザーン, ダナルヴェイ

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