Archive for 2009/06/11


 1950年代のアメリカ。幼い頃から歌手として活躍していたジューン・カーターは、ジョニー・キャッシュにとって憧れの存在。そしてジューンもジョニーの才能を早くから認めていた。ジョニーは優秀な兄を持ち、父はろくでなしの方を持っていかなかったと神を罵る。ジョニーは深い傷を被いながらも、兵役に出てやがて家庭を持つ。しかし、生活は困窮を極め、ジョニーはレコード会社で飛び込みのオーディションを受け、合格、レコードを出せることになる。妻子を残し全米ツアーに出た彼は、憧れのカントリー歌手、ジュ-ンと運命的に出会う。音楽という共通の分野で尊敬し合っていた2人は、初めて言葉を交わした日から強い力で惹かれあっていく。何度かすれ違いで距離を置いた2人だが、さらに数年後に再会し、ジョニーの説得で2人は再びツアーを共にするようになる。レコード会社の移籍で100万ドルを手にする大スターとなっていたジョニーは、しかし、妻との関係もうまくいかずドラッグに溺れるようになっていた。そんなジョニーの精神的な支えになったジューンとジョニーはついに一夜を共にしてしまう。それでもジューンが恋愛関係を拒んだことで、ジョニーはますますドラッグに溺れていく。ステージ上で意識を失くす失態を演じ、ツアーは中止、さらにメキシコからドラッグを密輸して逮捕。そしてキャリアも家庭も失い、ひとりドラッグに溺れるジョニーだった。ジューンだけは決してジョニーを見捨てず、ただ独り、辛抱強く介抱を続けた。
 実在した1950年代のカリスマスター、ジョニー・キャッシュの半生に迫った真実の愛の軌跡。監督は『17歳のカルテ』や『アイデンティティ』のジェーム・マンゴールド。主演のジョニーを『グラディエーター』のホアキン・フェニックスが、ジューンをリース・ウィザースプーンが演じる。当時はアカデミー賞最有力候補作のひとつと騒がれた。
 栄光と挫折のはざまで、さまざまな困難を乗り越え結婚したジョニー・キャッシュとジューン・カーターとの十数年におよぶ愛のドラマを、魂の音楽とともにつズづる感動のラブ・ストーリーだ。注目すべきは歌のシーンをすべて吹替えなしで演じた主演のホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーン。プロ級の歌唱力(プロ級と言われたところには少し疑問が残るが)とその表現力が高く評価され、2人揃ってゴールデングローブ賞を受賞、アカデミー賞へはリース・ウィザースプーンのみ受賞し、ホアキン・フェニックスはノミネートにとどまった。ホアキン・フェニックスは体の奥深くから絞り出される魂の叫びのような低音ボイス。重厚で深みのあるキャッシュの歌と生きざまを魂のレベルで再現してみせた。闇に導かれる生き方を歌で表現したとも思える。実在のジョニー・キャッシュは2003年に他界している。ミュージシャンの栄光、ドラッグでの挫折、そして復活への道程、ありがちなミュージシャンの復活の物語に思えるが、最後まで印象的な、ジョニーの繊細さが後に残る。そしてこれもまた予想を超えるライブパフォーマンスをこなし、母として女としてのジューンの苦悩と強さを見事に演じ切ったリースウィザースプーン。ともに吹き替えなしで歌声を披露。2人の迫真の演技と真実のストーリーが観る者の心を打つ。ただのアイドルだと思っていたリース・ウィザースプーンの器用さには感服するが、ボク個人的には自分をも傷つけてしまうガラスの危うさと、周囲を強烈に惹きつける男性像の共存を魅せたホアキン・フェニックスの熱演が素晴らしい。
 兄が事故死して以来、キャッシュは自分が生きているのは何かの間違いだという悪夢に取り憑かれ、苦しみ続ける。誠実でナイーブで不器用な生き方と、苦しみから逃れたいという悲痛の叫びが、ホアキン・フェニックスの肉体と声を通して画面に炸裂する。優秀な兄リバー・フェニックスを持っていたホアキン・フェニックスは、兄に嫉妬しながらも、兄の死後、パニックに陥りながら、兄を今にも超えような俳優になった。そして、今回の役が兄を失って失意のどん底に落ちる男。しかもその男は、リバー・フェニックスと同じ、音楽を愛し、ドラッグに溺れたのだ。兄と自分を同時に体現したような映画。それが彼に熱演に火をつけたと思うのはボクだけだろうか。

◎作品データ◎
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』
原題:Walk the Line
2005年アメリカ映画/上映時間:2時間16分/20世紀フォックス映画配給
監督:ジェームズ・マンゴールド/原作:ジョニー・キャッシュ/脚本:ギル・デニス, ジェームズ・マンゴールド/製作総指揮:ジョン・カーター・キャッシュ, アラン・C・ブロンクイスト/製作:キャシー・コンラッド, ジェームズ・キーチ/音楽:T・ボーン・バーネット/撮影:フェドン・パパマイケル
出演:ホアキン・フェニックス, リース・ウィザースプーン, ロバート・パトリック, ジェニファー・グッドウィン, ダラス・ロバーツ

recommend★★★★★★★☆☆☆
favorite     ★★★★★★★★☆☆
広告

 1952年、アメリカ北東部メイン州の町グレイヴズタウンで驚くほど小さな赤ん坊サイモンが生まれた。医師は長くはもたないと判断したが、サイモンは1週間、1年と生き続けた。両親はそんなサイモンを恥じ無視した。サイモンは「神様が小さな身体をくれたのはなにか使命があるからだ」と信じるようになる。サイモンが12歳になったころ、私生児としていじめられているジョーと親友になった。ジョーは、母親のレベッカが高校3年生の時に産んだ子、しかし誰が父親かは頑として口を閉ざしていた。サイモンは、レベッカを慕い、レベッカもサイモンを慈しんでいた。夏の日にサイモンがピンチヒッターとして野球の試合に出た時に事件が起きた。サイモンが打ったホームランボールがレベッカを直撃、レベッカは急死してしまったのだ。冬になり、ジョーは日曜学校のキャンプに参加した。サイモンはふとしたことからジョーの本当の父親が町の牧師であることに気づいた。同じころジョーも父親である牧師の告白を受けていた。帰りのバスにキャンプの参加者と一緒に乗り込んだジョーとサイモン。しかし、バスは事故を起こし、川に突っ込んでしまう。沈むバスの中、サイモンは窓の隙間をくぐって子どもたちを救出、危篤状態に陥る。瀕死の床でサイモンはジョーに「僕の小さな身体に意味があっただろう?」とつぶやく。小さな窓の隙間から救出を出来得たのはサイモンしかいなかったのだ。サイモンの死後、ジョーは少年時代の思い出を胸に、強く生きていくのだった。
 ある少年の数奇な運命を描く感動ドラマ。「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」で知られる現代米国文学の旗手、ジョン・アーヴィングのベストセラー「オーエンのために祈りを」を原作に同作の一部を初監督作となるマーク・スティーヴン・ジョンソンの監督・脚本で映画化したもの。主演はこの映画のために抜擢されたイアン・マイケル・スミスと「ロストワールド」のジョゼフ・マゼロ。脇を固める俳優陣は豪華でオリヴァー・プラット、デイヴィッド・ストラザーン、アシュレイ・ジャッドなどが主役の少年2人を引き立てるほか、ジム・キャリーがノー・クレジットでナレーターを兼ねて大人になったジョーとしてカメオ出演しているのが話題だった。
 ジョン・アーヴィングの小説は全体的に難解で映画化が困難とされている。「オウエンのために祈りを」もそのまま映画化できず、部分的に映像化したものだ。映画らしい独特の世界を持つ完成された作品となっているが、読んでいないけれどもきっと原作はもっと複雑なものだったように感じる。前半、自分の存在を理解するために、神様は計画があって自分を生かしているのだと言うサイモンの信心を尊重するレベッカと、ジョーのそれぞれ交錯している愛情の構図があり、それが崩壊したときの、バランスのずれを埋めるものと、ジョーの父親探し、サイモンに課せられた使命は何かを手繰りながらクライマックスへと話が展開してゆく。窓の大きさや潜っている時間の長さなどは出来すぎているが、見事な伏線として前半のテンポよいコメディタッチが活きてくる。この映画はいわゆる難病もの。しかし暗くなくウィットを利かせた作りになっているのがいい。ふたりの少年の好演も瞼に残る余韻を残してくれている。そして、物語半ばでいなくなってしまうレベッカを演じるアシュレイ・ジャットがとても美しい。またレベッカの恋人役のオリバ-・プラットもいい味を出している。滑稽さと悲哀さを混在させるアメリカの片田舎の風景がノスタルジックな記憶を呼び起こしてくれるような優しく美しい映画になっている。
 サイモンが自分のことを「神の道具」だと表現するくだりは、ちょっとコンプレックスなのかと感じたが、それは「英雄」へと繋がっていく実に力強い信念であって、「自分は生きていていいんだ」といちばん信じたいのはサイモン自身ではないかと感じた。少し宗教色が強く、理解のない人々や親の無関心など、理不尽な要素は多いものの、不自由な体を持つ主人公の映画にありがちな悲壮感はほとんどなく、むしろ、それを反発として自分の生きる意味を探し続けたサイモンの姿に感動できる。サイモンは死んでしまうのに見終わったあと、妙に爽快な気分にさせてくれる貴重な映画だと思う。

◎作品データ◎
『サイモン・バーチ』
原題:Simon Birch
1998年アメリカ映画/上映時間:1時間53分/ブエナビスタインターナショナルジャパン配給
監督・脚本:マーク・スティーヴン・ジョンソン/原作:ジョン・アーヴィング/製作:ローレンス・マーク, ロジャー・バーンバウム/音楽:マーク・シャイマン/撮影:アーロン・シュナイダー
出演:ジョセフ・マゼロ, イアン・マイケル・スミス, オリバープラット, デヴィッド・ストラザーン, ダナルヴェイ

recommend★★★★★★★☆☆☆
favorite     ★★★★★★★★☆☆