プロのチェロ奏者として小林大悟は東京のオーケストラに所属していたが、ある日突然楽団が解散。自分の能力に限界を感じた大悟夢を諦め、1800万円かけて手に入れたチェロをも売り、妻とともに田舎の山形県酒田市へ帰ることにした。就職先を探していた大悟は、新聞で「旅のお手伝い」と書かれた求人を見つけ、旅行代理店の求人と思い込み、NKエージェントの面接に行く。履歴書を一瞥もしない社長の面接で即採用が決まり、慌てて詳細を聞く大悟は月給50万円という破格の条件に喜ぶ。しかし、業務内容が納棺であるとと知り、困惑した。妻には冠婚葬祭関係の仕事だとごまかし、妻は結婚式場に就職したものと勘違いしてしまった。出社しすぐに、それは厳しい仕事であることを実感する。少しずつ納棺師の仕事に充実感を見出し始めていた大悟に、町で噂が立ち始める。やがて妻も仕事の内容を知ってしまう。「汚らわしい」と実家に帰ってしまう妻。幼なじみとも疎遠になり絶望するが、社長のこの仕事を始めたきっかけや独特の死生観を聞き一旦決めた退職を思いとどまる。場数をこなしそろそろ一人前になったころ、妻は大悟の元に戻った。妊娠をしたのだ。そして、ひとり銭湯を切りもりしていたおさな馴染みの友人の母の納棺の仕事が急に入った。友人とその妻子、そして自らの妻の前で母親を納棺する大悟。その細やかで心のこもった仕事ぶりに友人とは和解し、妻の理解も得た。そんなある日、自宅に電報が届いた。大悟が子供の時に家庭を捨て出て行った父、淑希の死を伝えるものであった。
 自分の意図していたものとは全く違う仕事、遺体を棺に納める納棺師となった男の、仕事を通じて触れた人間模様と周りの影響を受けながら成長していく姿を描いた感動作。監督には滝田洋二郎があたり、放送作家の小山薫堂が初の映画脚本に挑戦した。一見偏見を持ってしまう理解の得られにくい職業、納棺師に焦点を当て、重くなりがちなテーマをユーモアも交えながら、しかも真摯で丁寧なタッチで綴られている。主人公の納棺師にはこの企画を持ち込んだ本木雅弘が扮し、広末涼子、山崎努、余貴美子、杉本哲太、吉行和子、笹野高史ら実力派が脇を固める。そしてそれにチェロを中心としたやさしい音色で色を添えるのが久石譲の音楽。
 納棺師、それは芸術とも言える素晴らしい仕事。本木雅弘や山崎努のスムースな所作に思わず魅了されてしまう。美しく厳かな旅立ちの儀式にふさわしいもの。かつて旅先で遭遇した納棺の儀式に感銘を受けた本木の発案だというユニークな題材を持つ本作。『僕らはみんな生きている』『病院へ行こう』などユーモアを交えながらヒューマンな感動を描くのが得意な滝田洋二郎監督だが、今回の演出は特に光るものがあった。誰もがいつかは迎える死、その日まできちんと生きる人々の姿を、夢への執着、仕事への誇り、親子や夫婦の絆を大事に描いたこの作品は誰の心にも深く残ると思う。
 日本国内では第32回日本アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞をかっさらい、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール、報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞、ヨコハマ映画祭など今年の賞レースを総嘗めにした。しかし、なんといっても話題になったのは第81回アカデミー賞の外国語映画賞をはじめとする数々の国外での映画賞だ。こういう作品が外国で認められるのはとても嬉しい。我々日本人でも大半が知らなかった日本文化の、若しくは慣習の素晴らしいところだ。
 この映画で、故峰岸徹が死者の役で登場する。そこで使われた小道具「石」。ここには顔すらも忘れてしまった親子の絆を取り戻す力が隠されている。主人公はいろいろな愛や誇りを挫折を経験しながら体得し、そして、過去に置いて来たとても大事なものを、取り戻すことができたのだ。死をもってからしか思い出せなかったのが儚いが。
 本木雅弘はこのためにチェロと納棺師の手技を見事に体現した。凄まじい執念と努力だ。美学の極致にまで達していると思う。死という出来事を門をくぐる作業だとし、それを美しく送り出す役目、その人生を尊敬を持って彩る役目。決して穢れた人間でないことを、人の死という通過点を見守る視点で描き上げたことに賛辞を贈りたい。死ぬということ、今のボクには強く胸に突き刺さる感動の映画だった。

◎作品データ◎
『おくりびと』
英語タイトル:Departures
2008年日本映画/上映時間:2時間11分/松竹映画配給
監督:滝田洋二郎/原作:ゾーイ・ヘラー/脚本:小山薫堂/製作総指揮:間瀬泰宏/製作:信国一朗/音楽:久石譲/撮影:浜田毅
出演:本木雅弘, 広末涼子, 山崎務, 余貴美子, 笹野高史

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