1950年代の南イタリアのナポリ、沖合いに浮かぶ小さな緑の島。ある日、チリの偉大な詩人で外交官のパブロ・ネルーダは祖国チリを追放されてイタリアに亡命してきた。島の貧しい若者マリオは、父の後を継ぎ漁師になるのを望んでおらず、ネルーダに世界中から届くファンレターを配達するためだけの臨時の配達人の職につく。彼はネルーダの温かみのある人柄に惹かれ、ささやかな交流の中、年の差も越えていつしか友情が芽生える。ネルーダは美しい砂浜で自作の詩をマリオに聞かせ、穏やかで不思議な感覚を与えた。彼はまた詩の隠喩について教わる。そんな時、彼は島の食堂で働く美しい娘、ベアトリーチェに一目惚れする。ネルーダはチリの同志たちが誕生日のお祝いに送ってきたテープをマリオに聞かせた。ネルーダは、坑夫たちの過酷な現実を知り、その深い悲しみの中から詩が生まれたことを語る。マリオは、ネルーダが現実の妻マチルデに送った詩をベアトリーチェに捧げた。しかし、彼女の親代わりのローザの逆鱗に触れた。他人の詩を使うことは感心せんと言うネルーダに、マリオは「詩は書いた人間のものではなく、必要としている人間のものだ」と詩の本質を突いた。やがて、2人は結婚し、ネルーダもマチルダと祝福した。追放令は解除され、夫妻は帰国することになった。空虚感にさいなまれたマリオの元に、詩人から味もそっけもない事務的な手紙しか届かず、彼の心は傷ついた。翌日、マリオは再び別荘で詩人が残したテープを再び聞いた。ネルーダによって人生の意味を知った今、マリオから彼に手紙を書くべきなのだ、と。彼は、自分の書くべき詩だと自然の音とそれを歌った詩を録音し始め、彼の自分の心の世界を広げた。数年後、ネルーダ夫妻が島を訪れた時、そこにマリオの姿はなかった。マリオは共産党の大会に参加し、暴動が起きてその混乱の中で死んだのだった。マリオはネルーダに捧げた詩を労働者の前で発表するために共産党の大会に参加したのだった。ネルーダは二人の思い出の海岸に足を運び、マリオとの日々を思い、そっと涙を流した。
 1950年代のある時期、ナポリ沖合の小さな小島の漁村を舞台に、貧しい純朴な青年が、島を訪れた詩人との友情を通して次第に自己に目覚め、愛を知り、人間として成長していく姿を、温かく描いた感動編。実在したチリの偉大な詩人パブロ・ネルーダをモデルに、同じチリの作家アントニオ・スカルメタが書いた小説「バーニング・ペイシェンス(燃える忍耐)」を『スプレンドール』などに主演したイタリアの喜劇俳優マッシモ・トロイージが製作に加わり映画化した作品。『白い炎の女』の親友であるイギリスのマイケル・ラドフォード監督に指揮を依頼し、予定していた心臓移植の手術を延期してまで撮影に臨んだ。クランク・アップの12時間後である1995年6月4日に41歳の若さで死去した。ロケの最中に倒れ「今度は僕の最高のものをあげるからね」とスタッフに言い残した。アカデミー主演男優賞にノミネートもされた。アメリカではジュリア・ロバーツ、スティング、マドンナら、この映画に感動した人々がサントラ盤用に、ネルーダの詩の朗読に参加したのも話題となった。脚本はトロイージと監督ほか5人。撮影は『サン・ロレンツォの夜』のフランコ・ディ・ジャコモが担当している。哀愁に満ちた印象的な音楽はルイス・エンリケ・バカロフ。もうひとりの主役『ニュー・シネマ・パラダイス』のフィリップ・ノワレの存在感ある演技も素晴らしい。第98回アカデミー賞オリジナル作曲賞受賞。1996年度キネマ旬報外国映画ベストテン第1位。
 “イル・ポスティーノ”とは郵便配達人のこと。知的な詩人と本来なら知りあうはずのない素朴な郵便配達人である青年との心の交流の中に、それぞれの生き方や考え方の美しさが、それぞれの心に響き合い、まるで寄せては返す波のように、感動してしまう。画面も実に美しかった。悪いところがひとつも見当たらない心に癒しを与える名作だ。ただ、正直、心臓移植をしなければ生きてゆけない持病を持つマッシモ・トロイージに、島の坂道を自転車を立ち漕がせる演出は死を導くようなもんではないかい?

◎作品データ◎
『イル・ポスティーノ』
原題:Il Postino(英語タイトル:The Postman)
1996年イタリア・フランス・ベルギー合作映画/上映時間:1時間48分/ブエナビスタインターナショナルジャパン配給
監督:マイケル・ラドフォード/原案:アントニオ・スカルメタ/脚本:アンナ・パビニャーノ, マイケル・ラドフォード, フリオ・スカルベッリ, ジャコモ・スカルベッリ, マッシモ・トロイージ/製作総指揮:アルベルト・バッソーネ/製作:マリオ&ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ, ガエターノ・ダニエル/音楽:ルイス・エンリケ・バカロフ/撮影:フランコ・ディ・ジャコモ
出演:フィリップ・ノワレ, マッシモ・トロイージ, マリア・グラッツィア・クチノッタ, リンダ・モレッティ, アンナ・ボナルート

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