漁業局で毎日、魚を数える仕事をしているアクセルの夢は、アラスカでオヒョウを釣り上げること。叔父レオの使いでポールがアクセルの前に現われ、故郷アリゾナからレオの結婚式の介添人を努めてくれと言ってきた。キャディラックのディーラーをしているレオは、アメリカン・ドリームを信じる男だ。彼はアクセルを仕事のパートナーにしようとしていた。ポールの夢は映画スターになることだ。彼は映画館で舞台に上がり、『レイジング・ブル』のデ・ニーロのセリフぴったりに喋ってみせた。そんな折り、そのままアリゾナに居座り、叔父の仕事である車のセールスを始めたアクセルの前に、未亡人のエレインと義娘のグレースが現われる。夫を射殺した過去のあるエレインの夢は空を飛ぶこと。そして、自殺願望のあるグレースの夢はカメになること。母娘は互いに愛しあい、憎みあった。エレインに一目惚れしたアクセルは、その日から彼女のために飛行機作りに没頭する。ある夜、レオの新妻ミリーの知らせでレオが自殺を遂げたことを知ったアクセルは駆けつけるが、レオは「夢は終わった。お前も大人になれ」と言い残して死んでしまう。アクセルはエレインの40歳の誕生日に飛行機を贈る。しかしアクセルの心はエレインとグレースの間で揺れ動いた。その夜、嵐の中を出ていったグレースは、2人の見ている前で拳銃で遂に自殺を決行した。アクセルはアメリカにはもう、夢など残っていないことに気づくのだった。
 アリゾナを舞台に奇妙な登場人物たちが織りなす、夢を題材にしたヒューマンな喜劇。サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督が初めてアメリカを舞台に、アメリカン・ドリームとその行方を、不思議な感覚で描いた作品。脚本は監督のコロンビア大学映画学科での教え子デイヴィッド・アトキンスのオリジナル。それに監督が手を加えた。出演者もジョニー・デップ、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー、ヴィンセント・ガロ、ディーン・マーティンらが異様な芸達者ぶりを見せる。特にフェイ・ダナウェイの変人ぶりには恐れ入る。演技と思えない本当に変な、でもきれいなおばさんだ。
 ストーリーだけ見ると悲惨だが、これはたぶん喜劇。滑稽という言葉がぴったりくる。簡単に言うと、難解な作品かもしれない。いわゆるアメリカン・ドリームのような誰もが抱く理想を努力を持って切り開く映画ではなく、途轍もない夢を追い続ける変人たちの映画だ。しかし、滑稽に見えるその夢も本人たちにとっては真剣そのもので、自分の夢に跳ね返してみたりする。はたしてボクが抱く夢とは何で、それは努力すれば叶う可能性のある現実的な夢なのか、無謀な超現実的な理想なのか。しかし、それがなんであろうと夢は夢。理想や目標とは違う。諦めなければいけない時もあるし、変人扱いされながら成し遂げて大英雄になる人もいる。そこに自分のポリシーや信念や自信が存在するかしないかが、問題だと思う。宝くじを夢と思う人もいるだろう。でもそれは自分で手に入れるような夢ではない。他力本願でない夢への邁進こそが美しいのだと思う。
 ベルリン映画祭で銀熊賞を受賞している。ほかで言う監督賞にあたる。そこまで演出に秀でた感じがあるか微妙だが、ボクの好きな映画のひとつだ。わかりやすい映画が好きな方にはお勧めできない。この映画もどのジャンルに入れようか迷った。でも、やっぱり喜劇だと思う。これでもエミール・クストリッツァ監督の中では常識的でわかりやすい映画だと思うんだけどな。途中何度も挿入されるジョニー・デップのナレーションに言いたいことはすべて集約されている気がする。まあ、この登場人物5人は変人でいいのだと思う。ボクから見れば普通だ。

◎作品データ◎
『アリゾナ・ドリーム』
原題:Arizona Dream
1992年アメリカ・フランス合作映画/上映時間:2時間20分/ユーロスペース配給
監督:エミール・クストリッツァ/原作:デニス・ルヘイン/脚本:デイビッド・アトキンス, エミール・クストリッツァ/製作総指揮:ポール・R・グリアン/製作:クローディ・オサール, イヴ・マルミオン/音楽:ゴラン・ブレコヴィッチ/撮影:ヴィルコ・フィラチ
出演:ジョニー・デップ, ジェリー・ルイス, フェイ・ダナウェイ, リリ・テイラー, ヴィンセント・ギャロ

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