1970年ごろのボストンの貧困地区、ジミーとショーンとデイブは路上でいつものように遊んでいた。やんちゃな些細ないたずら、警官と思われる男が注意し、デイブだけを車に乗せて連れ去った。数日後、デイブは暴行を受け無惨な姿で発見される。そして25年後、それぞれが家庭を持って、それぞれが問題を抱えていた。ある日、ジミーの19歳の最愛の娘が殺されてむごたらしい姿で発見される。今では刑事となったショーンがこの事件にあたる。デイブが容疑者として浮かび上がった。ショーンが必死に捜査にあたる中、ジミーはデイブを運命の場所ミスティック・リバーへ呼び出したのだった。そして、犯してはいけない過ちを犯したとき、別の真犯人が捕らえられるのだった。
 殺人事件のミステリーの枠を超えた、心を揺さぶる痛ましいまでの悲哀と人生を生き抜く力強さを描いた感動作。デニス・ヘラーのベストセラー小説をクリント・イーストウッドが映像化した。オスカーの主演男優賞をショーン・ペンに、助演男優賞にティム・ロビンスをもたらした映画だ。ほかにもケヴィン・ベーコン、ローレンス・フィッシュバーン、マルシア・ゲイ・ハーデン、ローラ・リニーといったこれ以上ないキャストを配して余りにも底知れない誤解と悲惨を美しく酷く描いたこの作品を観て、運命ともいえる悲しみの連鎖にただただ悲しみが残る。
 誰が悪いわけでもない、そういう映画ではない。みんな悲しみと絶望と過ちに満ちている。でも、みんなやさしいのだ。何がどう間違ってこうなってしまうのか。はじめに連れ去られたのがデイブだったというだけで、運命的にこうなってしまったのだろうか。心に傷を負ったいちばん可哀そうな人間が救われない、本当に酷い映画だと思う。少年時代は親友だった3人。でも3人ともそれぞれがそれぞれを今では友だちなわけではないという。しかし、心の底には少年時代をともに過ごしたノスタルジックな思い出が残っている。なのに、どうしてそれがこんな悲劇になってしまうのだろう。あの時こうしていれば、あの時の連れ去られた少年がデイブじゃなかったら…どうしてもそれは思わずにはいられない。過去に翻弄されている3人が、過去を払拭できないままそれぞれに心に渦巻く家族への愛憎や日常への苛立ちを抱えている。これを存続させている微妙な心のバランス、この均衡が崩れたとき、人間は信じられないほど愚かになる。この映画は生身の人間の在り様を浮き彫りにする。つまらない悲劇に終わらず、泣いたらすっきりできるような感動のかけらでもない。真相はあくまで彼らの心の根底にあって、観る者にさまざまな解釈がされるのだ。誰も正しくないし、誰も支持したくない、でも誰も責められない。そんな感じだ。
 クリント・イーストウッドは、もう俳優業からは引退すると噂されているが真相はどうなのだろう。ボクとしては、『グラン・トリノ』がいい幕引きの燻し銀の演技で、監督を続けてくれればそれでいい。まだ、映画で表現し纏める力は全く衰えていない。
 監督としてたくさんの名作を残しているクリント・イーストウッドだが、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』でオスカーを受賞し、2大名作とされている。でも、ボクは個人的にこの『ミスティック・リバー』がいちばん好きだ。今年の日本公開分だけでも『チェンジリング』『グラン・トリノ』と2作公開されているが、どちらも完成度が高い。今となっては彼の作品というだけで間違いはないと思える。そしてどれもが悲劇的で胸を抉る。結論が悲惨なのだ。しかし、現実を見ない可能性の低い希望を抱かせるよりも、痛烈な問題提起になる。
 心の弱いボクはデイブに強い感情移入をした。つまり、ボクは哀しい悲惨な運命に導かれる? 今、改めて観直してみて、やはり公開当時以上に強く深く胸を抉られた。

◎作品データ◎
『ミスティック・リバー』
原題:Mystic River
2003年アメリカ映画/上映時間:2時間18分/ワーナーブラザーズ映画配給
監督:クリント・イーストウッド/原作:デニス・ルヘイン/脚本:ブライアン・ヘルゲランド/製作総指揮:ブルース・バーマン/製作:ロバート・ローレンツ, ジュディー・G・ホイット, クリント・イーストウッド/音楽:ニコラ・ビオヴァーニ/撮影:トム・スターン
出演:ショーン・ペン, ティム・ロビンス, ケヴィン・ベーコン, マルシア・ゲイ・ハーデン, ローレンス・フィッシュバーン

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