第二次世界大戦前夜の1939年、戦火の迫るイタリアで、ユダヤ系イタリア人のグイドは、本屋を開業するために叔父を頼って友人とともに北イタリアの田舎町にやってきた。いつも笑顔を絶やさない陽気な性格の彼は、小学校の教師ドーラと駆落ち同然で結婚して息子ジョシュアをもうける。しかしジョシュアの5歳の誕生日、戦時色は次第に濃くなり、ついに戦火は彼らのもとに及んだ。北イタリアに駐留してきたナチス・ドイツによって、3人は強制収容所に送られてしまう。母と引き離され不安がる息子に対し、グイドは嘘をつく。「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだ」。絶望と死への恐怖が支配する中で、前向きなグイドの明るさが家族に奇跡を起こす。
 美しい人生を自らの手で築き上げていく男を、ユーモア溢れる空想的な描写で表現。監督、脚本、主演を務めたロベルト・ベニーニは、90年代のチャップリンと称賛され、イタリア映画でありながらその年のアカデミー主演男優賞、脚本賞、外国語映画賞を受賞した。ニック・ノルティとトム・ハンクスの一騎打ちと下馬評で噂されてた主演男優賞は、コメディのセンスをリスペクトする映画人から圧倒的な支持を得て奇跡の受賞となった。
 この作品では、単なるドタバタではなく第二次世界大戦とナチスドイツの背景の裏でひとりの女を愛し、家族を心から守ろうとする男の生きざまを見せつけてくれる。冒頭からしばらくは、ベニーニのあり得ない大袈裟な喜劇ぶりが鼻につく。しかしそれは、後半どこまでも前向きに明るく振る舞う気質の伏線だったのだ。罪のない嘘の美しさ、それで子供の夢さえもひっくるめて守ろうとする姿は胸を打つ。本当はコメディではなく、ドラマだ。結末もドラマの悲惨さを湛えている。しかし、この映画はコメディ作品として称賛を与えるべきだと思う。嘘がクライマックス、真実として悲惨な結果をもたらす。しかし、ジョシュアはこの時代を、父のおとぎ話のような嘘を、一生のいちばん大切な時間として、振り返り、ストップモーションでハッピーエンドに見える結末に仕上げている。世界でいちばん温かい嘘だ。誰がこの嘘を責めるだろう。この映画での彼の嘘は初めただのホラだ。いつしかそこに愛のエッセンスを加えたことで最も美しい嘘になる。エンディング、大人になったジョシュアの振り返るたったひと言の呟きのようなナレーション、これがこの映画を完璧なものに変えた。恋すること、生きること、それに懸命になったグイドに世界中の人々が笑い涙した。はたして、こんな感覚になった映画が過去にあっただろうか。それだから、これは悲惨な映画ではなく、「人生は美しい!」と題するほど絶対の自信を持って描かれた愛の物語になっている。
 ベニーニの父はベルゲン・ベルゼン強制収容所で2年間を過ごしている。その辺は彼の演技に真実味を与えているし、ロベルト・ベニーニとニコラッタ・ベラスキはベニーニ全作品で共演をしている、実生活でも夫婦だ。ベニーニ夫妻とジョシュア役のカンタリーニは、撮影に入る前に実際に寝起きを共にして家族愛を深めた。第264代ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は好きな映画として『ガンジー』や『シンドラーのリスト』とともに本作を挙げているのが素晴らしい。
 単なる愛を描いた映画ではなくそこに宗教、人種、民族、戦争、差別、教育、親子、夫婦、さまざまな人間の根源的な問題に喚起しようとする、哲学的な深みを持つ作品だ。ボクらの持つ生活や社会での悩みなど、「人生は美しい!」と言って、笑って泣いて吹き飛ばしてしまおう、と思える。

◎作品データ◎
『ライフ・イズ・ビューティフル』
原題:La Vita e Bella(英語タイトル:Life Is Beautiful)
1997年イタリア映画/上映時間:1時間57分/松竹富士・アスミックエース配給
監督:ロベルト・ベニーニ/脚本:ヴィンセンツォ・チェラーミ, ロベルト・ベニーニ/製作総指揮:マリオコトネ/製作:エルダ・フェッリ, ジャンルイジ・ブラスキ/音楽:ニコラ・ビオヴァーニ/撮影:トニーノ・デリ・トリ
出演:ロベルト・ベニーニ, ニコレッタ・ベラスキ, ジョルジオ・カンタリーニ, ホルスト・ブッフホルツ, ジュスティーノ・ドゥラーノ

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