戦後間もないセチリアの小さな村、ここの唯一の娯楽はパラダイス座という映画館。母マリアと妹の三人暮らしだったサルヴァトーレはトトと呼ばれ、母親の目を盗んで買い物の駄賃で映画を観るほどの映画好きだった。映画館に通いつめていた彼の心を魅了したのはフィルムの宝庫である映写室と、それを操る映写技師のアルフレードだった。頑固者のアルフレードは、映写室という聖域からトトを追い出そうとするが、やがてふたりの間に不思議な友情が芽生えていった。当時パラダイス座には司祭の検閲があり、村の人々はこれまで映画のキス・シーンを見たことがなかった。トトは映写室でカットされたフィルムを宝物にしていた。しかしある日、フィルムに火がつき、パラダイス座は瞬く間に全焼してしまう。トトの懸命の救出にもかかわらず、アルフレードは失明してしまった。やがてパラダイス座は再建され、アルフレードに代わってトトが映写技師になった。青年に成長したトトは、銀行家の娘エレナに恋をし、幸せなひと夏を過ごすが、エレナの父親が2人の恋を許そうとせず黙って引っ越してしまい、トトは兵役についた。数年の除隊後村に戻ってきたトトの前にエレナが2度と姿を現わすことはなかった。そして現在のローマ、夜遅く帰宅した映画監督のサルヴァトーレ・ディ・ヴィータは、留守中の母からの電話でアルフレードの死を知る。アルフレードの勧めで、トトが故郷の町を離れて30年が経過していた。葬儀に出席するために村に戻ってきたトトは、駐車場に変わる荒廃したパラダイス座で郷愁に浸った。そして試写室でアルフレードの形見のフィルムを見つめるサルヴァトーレの瞳に、映ったものは、検閲でカットされたキス・シーンのフィルムを繋げ上げたものだった。彼の眼からは大粒の涙が溢れ出るのだった。
 映画をこよなく愛する監督の感性が光るロングバージョン。主人公トトの青年時代のエピソードをより細やかに描きあげ、物語に一層の深みと感動をもたらした。イタリアで公開されたオリジナル版の上映時間は155分だったが、興行成績が振るわなかったため、海外では123分に短縮されて公開され成功を収めた。このバージョンも監督本人が編集していて、ラブシーンやエレナとの後日談がカットされた。2002年に、このバージョンが完全版として公開された。劇場公開版と完全版では、テーマが変わってしまっているのが珍しい。公開当初の映画へのオマージュのようなノスタルジックな雰囲気がラブストーリーとしての要素を濃くし、当時は賛否両論だった。今、これを書くにあったって見直してみると、完全版の方が完成度としては高く感じられる。しかし、後日談を車の中での2人の会話で済ませてしまっている点は正直がっかりした。当時劇場で観たとき、ラストのトトが形見のフィルムを観るシーンでやたら涙があふれて止まらなかったのを憶えているけれど、また観ても涙が出てくる。ただ、当時の方がこのラストのキスシーンのフィルムは長く感じられたように思う。
 監督はこの映画が劇場公開としては初となるジュゼッペ・トルナトーレ。この映画が良すぎて、以降これを超える映画は作れていないように思う。名匠と呼ばれる日は来ないのだろうか。そしてトトの少年時代を演じるサルバドーレ・カシオ、彼の喜びを表す瞳の輝きは穢れがなく愛らしい。何という適役だろう。またエンニオ・モリコーネのこの音楽は数ある彼の作品の中でも名作中の名作だと思う。この映画を見直して、ボクは携帯のメール着信音をこの映画にした。
 この映画は1989年のカンヌ映画祭審査員特別大賞を受賞して、評判になった。オスカーの外国語映画賞も受賞している。これは、映画を愛する人々の気持ちが高まって受賞に至ったように思う。やはり、映画の原点はイタリアにあるかなと感じた。日本映画でも、寂れた映画館を舞台にした秀作が何本かあるが、どうしてもこの映画の映画への愛情には敵わないような気がしてならない。映画ファンのひとりとして、この映画を最高傑作として評したいと思う。

◎作品データ◎
『ニュー・シネマ・パラダイス』
原題:Nuovo Cinema Paradiso(英語タイトル:Cinema paradise)
1989年イタリア・フランス合作映画/上映時間:2時間55分/ヘラルドエース=日本ヘラルド映画配給
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ/製作総指揮:ミーノ・バルベラ/製作:フランコ・クリスタルティ/音楽:エンニオ・モリコーネ/撮影:ブラスコ・ジェラート
出演:フィリップ・ノワレ, サルバトーレ・カシオ, マルコ・レオナルディ, ジャック・ペラン, アニエーゼ・ナーノ

recommend★★★★★★★★★★
favorite     ★★★★★★★★☆☆

広告