Archive for 2008/07/01


the spitfire grill

 パーシーは5年間の刑期を終えてメイン州の小さな町ギリアドでバスを降りた。町の保安官の斡旋でハナの営む小さなレストラン「スピットファイア・グリル」で住み込みで勤めはじめた。しかし、偏屈なハナとはなかなかうまくいかず、他の住民たちもよそ者の彼女の過去を噂する。パーシーは自ら過去をレストランの常連客の前でカミングアウトした。仕事にも慣れはじめた頃、ハナが脚を骨折。病院まで運んでくれたパーシーを少しずつ信頼していくハナ。だが、ハナの甥のネイハムはパーシーの前科を盾に信用できないからと妻のシェルビーに店を手伝うように促した。最初はびくびくしていたシェルビーもだんだんとパーシーと心を通わせていく。そんな折り、パーシーはハナから裏庭に缶詰を入れた麻袋を置くように頼まれた。夜中に袋を持ち去る人影を見た彼女は正体のわからない彼のことをジョニーBと名付けた。そしてパーシーはシェルビーからハナの哀しい過去について聞く。ハナはひとり息子イーライをベトナム戦争で失っていたのだ。彼女は実はこの記憶から逃れるために店を売却しようとしていたのだが、10年たっても買い手がつかないのだった。パーシーは刑務所にいたころ聞いたことのある作文コンテストのことをハナに提案した。応募料100ドルで店への夢を語った作文を公募し、最優秀者に店をプレゼントするのだ。パーシーとハナとシェルビーは一丸となって広告のキャッチコピーを練った。彼女たちの予想を遥かに上回る手紙の山が全国から届いた。ある朝、森を散歩していたパーシーは小川のほとりに小屋を見つけた。ジョニーBの気配に導かれるように山々を見下ろす丘へ出たパーシーの背後には静かにジョニーBが立っていた。しかし、店に帰ってきたパーシーにハナは彼を追求したことに怒りをぶつける。ジョニーBとは戦争で心を病んだイーライだったのだ。次の日、店からは傷ついたパーシーの姿と共に、コンテストで集まった大金が消えた。パーシーは町の人々から嫌疑をかけられ、いたたまれないでいた。パーシーを唯一信じていたシェルビーはふたりだけの秘密の安息所である教会に行きパーシーを見つけた。自らの過去を語るパーシー。その頃、町の人々は真相を突き止めるため山狩りを始めた。息子の身を案じるハナのためにパーシーは森の中を走る。イーライを見つけたパーシーは、川の流れに飲み込まれて命を失ってしまった。パーシーの葬式でネイハムは町のみんなの前で、作文募集でハナの得た金をパーシーが盗むのではと心配して金を隠したことを告白する。自分は彼女のことをいちばん良くわかっているつもりだったのに何ひとつわかっていなかったと。そして店に男がやって来た。ハナは男に抱きついた。イーライが帰ってきたのだ。
 さびれた町にやって来た犯罪者の少女が、人々の心を癒していく様を描く人間ドラマ。監督はテレビで経験を積み本作が映画デビューとなったリー・デイヴィッド・ズロートフ。脚本も手がけている。こんないい作品を残しながら次の作品に出合っていない。作ってないのか公開されてないのか日本に来てないのかは不明だが、ぜひ次の作品にとりかかってほしい。主演のパーシーを演じるのはアリソン・エリオット。彼女が実にいい。犯罪者でありながら町を愛し町の人を愛す素敵な笑顔を見せてくれる。朴訥な感じがいい。店の主人ハナを演じるのがエレン・バースティン。彼女もまた最高で、はじめ怪訝な様子で屈折したイメージを与えるが次第にパーシーに心を開くあたりは優しさがにじみ出ている。そしてもうひとり、この後『ポロック』でアカデミー賞助演女優賞を受賞するマルシア・ゲイ・ハーデンが内気ででもやさしいパーシーと親友となるシェルビーを演じて名女優の片鱗を見せている。この3人の演技が自然体でとてもよい。
 実はこの映画のタイトルはお店の名前“スピットファイアー・グリル”が原題となっている。スピットファイアーとは戦闘機のこと。イーライを忘れられないハナのつけた名前だ。しかし邦題は『この森で、天使はバスを降りた』となっている。ボクはこの邦題は素晴らしいと感じた。刑期を終えた女性を“天使”と表現しているのだ。この町にとって彼女は天使だったのだ。そしてラスト、作文コンクールで優勝した女性が子供を抱えてバスを降りてくる。彼女もこの後この町に訪れた“天使”になるのだということをほのめかすタイトルだ。
 再生、癒し、犠牲…どの言葉も少し違う、そんな悲しいけど心温まる美しい作品だと思う。派手さはないがじっくり見てほしい。

◎作品データ◎
『この森で、天使はバスを降りた』
原題:The Spitfire Grill
1996年アメリカ映画/上映時間:1時間56分/東宝東和配給
監督・脚本:リー・デイヴィッド・ズロートフ/製作総指揮:ウォレン・ジー・スティット/製作:フォレスト・マレイ/音楽:ジェームズ・ホーナー/撮影:ロバート・ドラバー
出演:アリソン・エリオット, エレン・バースティン, マルシア・ゲイ・ハーデン, ウィル・パットン, キーラン・マルロニー

recommend★★★★★★★☆☆☆
favorite     ★★★★★★★★☆☆
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boogie nights

 1977年ロサンゼルス郊外のサン・フェルナンド・ヴァレーという街。エディ・アダムスは、ファラ・フォーセットとブルース・リーに憧れる普通の17歳の高校生。ただひとつ普通と違っていたのは35cmはあろうかという巨大なペニス。ディスコで皿洗いのバイトをしている彼をポルノ映画監督ジャック・ホーナーが、ポルノ男優にならないかとスカウトにきた。家族から愛情を与えら得れていなかった彼は初めて他人から認められ、オーディションで実力を発揮した。実家を飛び出し、ポルノ業界に飛び込んだエディ。ジャックばかりでなくポルノ界スーパーヒロインや、プロダクション・マネージャー、他の男優たちに導かれ、またたく間にスーパーヒーローに登り詰めていった。名前もダーク・ディグラーと改め、次々と主演作をヒットさせ、ついにはポルノ界の各賞を総てかっさらっていった。しかし、頂点を極めた彼は次第にドラッグの快楽に溺れていった。依存し副作用から頼みのイチモツもだんだん使い物にならなり、若手の新人ポルノ男優の台頭に焦りを感じた。エディは皆に八つ当たりするようになり、勢いからジャックの元を飛び出してしまう。スポンサーを失ったエディは堕落の一途をたどり、80年代に入るとビデオの時代へ、レーガン時代の到来もあって、エディの堕落ばかりでなくポルノ映画産業自体が急速に冷え込んでいった。ポルノ俳優達は社会の偏見を受け就職難に苦しみ、華やかだったジャック邸も誰もいなくなってしまった。どん底から這い上がろうとするエディは、ジャックの元へ帰ってくる。やはり自分にはポルノ業界しかないと鏡を見つめて決意を固めるのだった。
 1970年代後半から80年代にかけてのポルノ産業に精通する人々の心の葛藤とポルノ業界の裏側を描く人間ドラマ。監督・脚本は『ハード・エイト』で監督デビューしたばかりのポール・トーマス・アンダーソン。彼の2作目である。1998年キネマ旬報ベスト・テン第10位に選出されている。こんな社会派な映画を撮影当時26歳の監督が脚本も書き作り上げているなんて驚きである。
 俳優陣も豪華で当時まだ映画俳優としては未熟だったマーク・ウォールバーグを主演で堂々たる演技にのし上げた。ニューキッズ・オン・ザ・ブロックや独立後のマーキー・マークとしての白人ラッパーの肩書から、カルバンクラインの下着モデルへと転身、身の振り方を迷っていた直後の俳優転身の端役からの抜擢だ。ジャックを演じたバート・レイノルズもこの映画で各映画賞の助演男優賞を総なめにした。ジュリアン・ムーアも熱演している。弱気な主婦の役もいいが、『美しすぎる母』といい、セックスシーンを大胆に演じさせると人が変わる。しゃれたシーンも多くマーク・ウォールバーグを中心としたダンスシーンなどは無意味なようでいて、映画のカラーを決定づけているように思う。音楽もグッド。
 ポルノ業界は絶頂期を迎えていた。まだエイズの心配もなかったころだ。そのころ業界の人間はポルノが芸術として認められると信じていた。それがアメリカの当時のポップ・カルチャー・シーンだ。あたかもマフィアのファミリーのように、ファミリーが結束される。独特の世界、成功の極み、ドラッグ、そして、転落。彼らの人生は一変する。そこでの葛藤が緻密に描かれている。ボクはこの作品でポール・トーマス・アンダーソン監督の将来性を確信した。業界を知らないから興味をそそられる一種のぞき見趣味的な悪趣味な見方だったが、この作品は社会の背景を痛烈に戦慄に描いている。そしてその中でも業界全体を象徴するような主人公エディの生きざま。はじめは家庭からはみ出し、同情をそそるが、スターになってからの彼の増長ぶりとドラッグに染まってゆく弱さの露呈、これはまさしくポルノ業界の脆弱な部分を代弁していた。ポルノ男優としての盛衰というものがこんな社会的な悲劇になってゆく。何はともあれ話の発端であるダーク・ディグラーの13cmのイチモツにぼかしを入れてしまってはげんなりだ。レプリカなのに。ことこの映画においてはぼかしが映画の良さを壊してしまっているといっても過言ではない。見たくていってるわけではない。この映画が今公開されれば、ぼかしはなくなっているだろうか。日本の映倫に喝だ。

◎作品データ◎
『ブギーナイツ』
原題:Boogie Nghts
1997年アメリカ映画/上映時間:2時間35分/ギャガ・コミュニカーションズ配給
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン/製作総指揮:ローレンス・ゴードン/音楽:カリン・ラットマン/撮影:ロバート・エルスウィット
出演:マーク・ウォールバーグ, バート・レイノルズ, ジュリアン・ムーア, ヘザー・グラハム, ウィリアム・H・メイシー

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