mozart and the whale

 数字に関して天才的な才能を持ち、他のことには気がいかなくなるドナルドはタクシー運転手などして働くが、ミスばかりして長続きしない。それもそのはず彼はアスペルガー症候群という障害を抱え普通の日常生活を送れないのだった。しかし、同じような精神障害を持つ人たちのために定期的に集会を持ちリーダー的役割をはたしていた。少しでも社会に適応していこうとする若者が集まった。そこに新しいメンバーが入ってきた。人の言うことそのまま解釈してしまう金属音に弱い美容師のイザベルだった。ドナルドは次第にイザベルに恋心を抱き、イザベルもドなる度に好意を持ちは始めた。ふたりは家を借りペットたちと過ごす毎日。しかし、普通でありたいと願うドナルドと普通ではない自分を過剰に意識するイザベル。傷つけ合うふたりの間には溝ができ壁ができる。しかし、そんなお互いを最終的には理解し合い結婚するふたりだった。
 監督はノルウェー出身のピーター・ネス。まだ48歳の若手監督だ。ノルウェーではすでにいろんな賞を獲っている人気監督だ。今回が初めてのアメリカハリウッド進出作品。『レインマン』のロナルド・バスの巧みな脚本でセリフ回しのいい心理表現豊かな作品に仕上がった。アスペルガー症候群は厳密には違うかもしれないがいわゆる自閉症だ。そんな自閉症のふたりを演じるのがジョシュ・ハートネットとラダ・ミッチェルだ。ふたりとも症状の違う社会にうまく適応出来ない人間をうまく嫌味なく演じている。とくにジョシュ・ハートネットの落ち着きのない仕種などはうまいの一言に尽きる。
 アスペルガー症候群は特定の分野で特に秀でた才能を発揮するらしい。このふたりは同じ病気でありながらまったく正反対のふたりである。社会に適応できない部分が違うのだ。寄り添って生きていこうとすればするほど、正反対の生涯を意識せざるを得ないふたり。純粋であればあるほど罵り合い傷つけ合う。精神的な病(正式にはボクは脳の病気だが)を抱えるボクにとってこの映画は取り上げたり語ったりするのが難しい映画だ。ひとと違う部分を認識し受け入れて共存していくのか、そこを排除して適応しながら生きていくのか、これは大きな違いである。この映画ではハッピーエンドに終わるが、実を言って、ボクは有り得ない、いや有り得なくはないかも知れないが難しいことだと思う。それぞれが自分で精一杯なのに相手を受け入れ思いやったり助けたりしないといけないからだ。正直、そんな余裕はボクにはない。自分のことで手いっぱいだ。しかし、うまくやれないことは違っても、出来ないときの気持ちがわかるのはボクらも同じだと思う。うつ病はやりたくても出来ないからだ。適応とは少し違うかもしれない。容量が少なくて、出来ないときに凹んだりパニックを起こしたりする。昔は出来た、というのが最大の敵だ。
 恋愛はどうだろうか。常に依存したい人もいるだろう。ボクはうまく甘えられないから、独りにしてほしいときもある。焦りや苛立ちを感じていて人に優しく出来ないときは独りでいたい。何もやれなくても。
 この映画はボクのような病気の人間には勇気を与えてくれた映画となった。うまくいけば、やっていけるかもしれない勇気を与えてくれる。映画はこうでなくちゃな、と思う。ハリウッド的な映画だ。少し暗いのが続いたのでハッピーエンドを取り上げた。でも、障害があって、それが映画のベースになっていて、自分が病気は違っても似たような感情を持っているから、少し凹むよな。ふたりが一生大丈夫な保証まで与えてくれた映画ではなかったからだ。とりあえず結婚まで漕ぎつけた映画なのだから。
 監督は、この映画は社会に適応できない人の映画だが、その人たちと健常者の違いを描きたかったのではなく共通点を描きたかったと言っている。つまり、症状はなくても、人は恋愛において価値観やアイデティティの違いから傷つけ合う。そこを映画を通して観てほしかったと。果たして、観客すべてがそれを捉える事が出来ただろうか。しかし、ボクにとってはピュアで現実的な映画だった。観てよかった

◎作品データ◎
『モーツアルトとクジラ』
原題:Mozart and the Whale
2004年アメリカ映画/上映時間:1時間34分/アートポート配給
監督:ピーター・ネス/脚本:ロナルド・バス/製作総指揮:マンフレッド・D・ヘイド, ダニー・ディムボート, グレッド・コーチリン, ジョセフ・ローテンシュレイガー, アヴィ・ラーナー, トレヴァー・ショート, アンドレアス・ティースマイヤー/製作:ジェームス・アシェソン, ボアズ・デヴィッドソン, ロナルド・バス, フランク・デマルティーニ, ロバート・ローレンス/音楽:デボラ・ルーリー/撮影:スヴァイアン・クローベル
出演:ジョシュ・ハートネット, ラダ・ミッチェル, ゲイリー・コール, ジョン・キャロル・リンチ, リッキー・ミューラー

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