carrie
 アメリカのメイン州チェンバンレンの高校に通うキャリーは冴えない容姿と引っこみ思案な性格からいつもいじめを受けていた。ある日体育の授業の後、シャワーを浴びていた彼女は初潮を迎える。それをはやし立てるクラスメイトたちに彼女はショックを受けた。母親は狂信的なキリスト教信者で肉体の成長は邪悪の顕れだといい、キャリーを折檻した。キャリーはいつしか病的に敏感になり、興奮すると念動能力が備わってきているのに本人も気づいていた。キャリーをいじめていたクラスメイトたちが春の卒業前のパーティの参加を禁止される中、近所に住むスーだけは彼女への態度に反省をし、男子生徒のエスコートの不可欠なパーティに恋人のトミーを貸し出した。キャリーを嫌っていた他のクラスメイトはこのことで逆に反感を抱き、ある策略を練った。それは、パーティでベストカップルをトミーとキャリーが選出されうよう裏工作をし、発表の舞台の上でキャリーの頭上から大量の豚の血を浴びせるというものだった。果たしてその最大のいじめは実行された。クイーンに選ばれ、涙ぐむキャリーの上に降り注ぐ血の雨、ピンクから真っ赤に色を変える手製のドレス。彼女はショックでその場に立ち尽くす。いつしかそれは怒りとなって増幅され彼女の念力で会場は火の海と化した。茫然と会場を後にするキャリー。家に帰り血に染まったドレスを脱いでシャワーを浴びた後、母に憐憫を乞うキャリーに母はついに悪魔がやってきたと娘をナイフで刺してしまう。キャリーのどうようは頂点に達しキャリーの念力によって家は破壊された。スーを除くすべての人たちが死んだ。しかしスーも精神に異常を来してしまったのだった.。
 これをホラーのジャンルでの初紹介と決めて改めて映画を観たが、何度見てもショッキングな映画だ。原作がこれもスティーブン・キングだったと今知った。当時新人女優だったシシー・スペイセクの初ヒット作品で、世界的に超能力がブームになるほど大ヒットした。シシー・スペイセクはいかにもいじめられやすそうなキャラクターもうまく演じているし、これがパーティでドレスを着飾ると見事に輝きを増すヒロインに変わる。そして何といっても精神錯乱に陥った時の表情のおぞましさ、彼女はこの頃からすでに天才女優だったんだな、と思う。残念ながらこの印象が強くついてしまい、彼女が再び演技派女優として花開くのはかなり時間がたってからになってしまう。しかしまた最近賞レースなどにもよく登場するようになり、この映画のイメージは払拭されたようだ。
 この映画はホラーというよりは超能力もあってオカルトに近いかも知れない。まず、冒頭にシャワールームで血を流し初潮をからかわれるシーンがこの映画のイメージを決定づける。シャワールームの隅で座り込みクラスメートの罵声を受けるシーンは血が流れていることもあり、ホラー的な描かれ方をしている。アジアでは初潮は神聖なるものとして祝いごととなり、こんな描き方をしたら冒涜ともとられかねない。ここでの陰惨ないじめを母が理解し優しく宥めてくれたら彼女にこんな体質は顕れなかっただろう。なぜこんなに周りの人たちは陰険な人間ばかりなんだろうと思えるほどである。唯一といっていいほどの理解者だった女性教師のような優しい性格の母親だったら、と思う。母親の育て方や接し方は子供にいかに影響を与えるかを強調しているような映画だ。まあ、ボクも価値感がもうすこし母と似ていれば、こんな変な人間にはなっていなかっただろうと思ったりもする。
 ラスト、ただ一人生き残ったスーがベッドで夢を見ているシーン、ここでキャリーのお墓に花を添えるとき、墓から血に染まったキャリーの手が突如土から出てきてスーの手を掴む、スーはベッド上で脅え苦しむ。今となってはこの常套手段たるホラーのエンディングのシーン、もうすべてが終わって平和になったと見せかけて最後もう一回脅かしてみせる、これにまた驚いてしまうボクたちがいるわけだ。まんまと作り手の策略にひっかかかる。でも、それが楽しくなってきたり、飛び散った肉片を美味しそうだと思ったりできたら、もうホラー映画のとりこになっていると言っていいかもしれない。
 そうだ、ボクはもう週に1度は血を見ないといられなくなってしまっているのだから。
 
 ◎作品データ◎
『キャリー』
原題:Carrie
1976年アメリカ映画/上映時間1時間38分/ユナイト映画配給
監督:ブライアン・デ・パルマ/製作:ポール・モナシュ/原作:スティーブン・キング/脚本:ローレンス・D・コーエン/音楽:ピノ・ドナジオ/撮影:マリオ・トッシ
出演:シシー・スペイセク/パイパー・ローリー/エイミー・アービング/ウィリアム・カット/ナンシー・アレン
 
recommend★★★★★★★☆☆☆
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