la finestra di fronte 2
 ジョバンナとフィリッポは、ローマでふたりの子供と住んでいるごく普通の夫婦。フィリッポは夜働き、ジョバンナは鳥工場で経理の仕事をしているすれ違いの生活。ある夜、ディナーの後のテベレ川の橋の上で、記憶喪失で迷子になった老人と出会う。老人を警察で保護してもらおうとしながら家に連れて帰って来てしまう夫に怒りを覚えたジョバンナだったが、やがて、老人と心を通わせ始める。老人はシモーネと名乗った。一方、ジョバンナには向かいの窓に見えるハンサムな男に興味を抱き始めていたという一面もあった。趣味で作っているケーキを店に持ち込むジョバンナンに、その男は声をかける。相手も興味を抱いていたのだ。名前はロレンツォ。稼ぎが悪く、老人を連れ込んでおいて放っておく夫に嫌気がさしていた彼女は禁断の恋と知りつつ、ふたりは老人の捜索をきっかけに急速に近づいていった。そんなある日、老人が菓子職人だったことを知るジョバンナ。彼女はかつて抱いていたケーキ屋への夢を蘇らせていた。そして、実はシモーネと言う名は老人の名ではなかったことを知る。それは、かつてナチスの強制収容所で菓子職人をしていた時の禁断の恋の相手の名前だった。やがて、ロレンツォは支店長に昇格し、ローマを去らなければいけないことに。ジョバンナは、ロレンツォとベッドを共にすることを決意する。
 実は日本未公開作品である。つまり、スクリーンでは観てないわけだ。日本では、2004年度のイタリア映画祭でのみ上映されている。イタリアのアカデミー賞と言われるダヴィッド・デ・ドナッテロ賞をはじめ、シアトル国際映画祭グランプリ、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリなど数々の賞を受賞している。
 まず、冒頭のクレジットに「マッシモ・ジロッティに捧ぐ」とあるように、この映画で重要なキーマンとして登場する老人マッシモ・ジロッティの遺作となってしまった。追悼。何とも味のある燻し銀的演技である。彼は1942年のルキノ・ヴィスコンティ監督『郵便配達は二度ベルを鳴らす』で主演を演じている。これが格好いい。彼はイタリア映画に燦然たる足跡を遺したと言える。長い俳優歴の終点として、意味のある作品だったのではないだろうか。
 さて、本題。映画だが、この映画はふたつの揺れ動く軸の中で主人公ジョヴァンナの感情が表現される。老人の登場は問題提起として重要ではあるが話のバックボーンに過ぎない。よって、ナチスの強制収容であるとか、同性愛とかそういうことも、話に膨らみを持たせているだけであまり関係ない(とボクは思う)。ただ、中で出てくる老人の持っていたラブレターはジョバンナの恋に少なからず影響を与えていると思う。美しい文面だ。ナチスの強制収容所での同性愛というこれ以上ないとも言えない絶対成就されない状況の中での恋心について「よい世の中になったと僕にはどうしても言えない……君がいないのだから」という表現。これには泣けた。そしてこの老人の記憶を辿る謎解きが、この映画を陳腐な恋愛ものにさせなかった要因であると思う。
 この映画の醍醐味は恋と夢である。禁断の恋と生活のため諦めていた夢だ。彼女はぎすぎすした性格のなかからかつての躍動感をこの恋と夢で取り戻すののである。結果、彼女は恋に関しては現在の生活を選び、夢に関しては仕事を辞めて達成に踏み出してゆく。前者は無難で後者は冒険だ。
 たまたま日常に嫌気がさし、煙草を咥えてふと見た向かいの窓。これは、どこにでもある光景、共感は得やすい風景だ。日常の些細な苛立ちとはそういうものだ。いつしか、それが寝る前の習慣になっていく。覗き…これは犯罪。そして、相手にも覗かれていた主人公はなぜ逆上しない? それは彼が魅力的だからだ。
 まあ、そんなことはどうでもいい。彼女の夢であったケーキ屋。老人との交流の中でのケーキ作りのシーンは、感動する。そしてそれが後半のケーキの山のシーンへと感激を導いていく。そう、『ニューシネマ・パラダイス』でキスシーンの連続を観ているときのような感激。
 実にわかりやすく揺れ動く心境はきっと誰の心にも泌み入っていくことと思う。上質な映像とともに。そしてラスト、クレジットロールへ突入してゆくジョバンナの瞳の愁いに誰もが魅了されることと思う。右眼に少し涙を湛えたような何秒ものカメラ目線。美しい。単純ともいえるストーリーながら、非常に上質な質感を湛えた映像やダイアログは、きっと誰もの心に深く染み入るだろう。

◎作品データ◎

『向かいの窓』
原題:La Finestra di Fronte(英タイトル:Facing Window)
2003年イタリア・イギリス・トルコ・ポルトガル合作映画/上映時間:1時間46分/未公開映画
監督:フェルザン・オズペテク/製作:ジャンニ・ラモリ, ティルデ・コルシ/脚本:フェルザン・オルベテク, ジャンニ・ラモリ/音楽:アンドレア・グエラ/撮影:ジャンフィリッポ・コルティチェッリ
出演:ジョバンナ・メッツォジェルノ, マッシモ・ジロッティ, ラウル・ボヴァ, フィリッポ・ニグロ, マッシオ・パッジオ
 
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