priest 2 
 リヴァプールの労働者区域の教会に熱意に燃える新任司祭のグレッグが就任した。主任司祭のマシューはリベラルな考えを持ち、左翼的な説教をし、しかも家政婦のマリアと愛人関係にあり、保守的なグレッグを驚かせた。しかし、グレッグには秘密があり、夜な夜な皮ジャンに着替え自転車に乗って繁華街に出かけてゲイバーで男を物色していたのだ。厳しい現実に自信を失いかけていたグレッグはゲイバーで出会ったグレアムと肉体関係を結んだ。グレッグは罪の意識に駆られるがその一方心の奥では彼を愛し始めていた。ある日、グレッグは告悔で高校生のリサから父に犯されているという事実を知ってしまう。立ちはだかるのは守秘義務。母親にも、福祉局にも事実を伝えられない。父親本人に会うがまるで意を介さない。グレッグはどうしようもない心に慰めを求めてグレアムとデートを繰り返す。しかしグレアムが彼のミサに来ると、グレッグは彼への聖餐を拒んでしまう。ある午後、リサの母がたまたま早く家に帰って夫が娘を犯しているのを目撃する。彼女はなぜ教えてくれなかったとグレッグを非難する。絶望したグレッグはグレアムに会い、二人は車の中で愛を確かめ合う。これがもとでグレッグの同性愛が露呈し、裁判沙汰になってしまう。彼は自殺未遂の末に僻地の教会に転任させられた。その間もマシューは偏見に負けてはならないと説き伏せる。始めはマシューとの意見の食い違いに反発を感じていたグレッグだが、真摯な誠意に、マシューと一緒に祭壇に立つことを決意する。日曜日のミサ、一部の信者は怒って席を立ち、残った信者も聖体拝受をグレッグから受けようとする者はいなかった。ただ独りリサを除いては。グレッグは彼女を抱きしめ、許しを求めて涙を流すのだった。
 今でこそ、許容の枠の広がった同性愛だが、この当時はまだ、政治的にも争点になっていた。しかも、司祭という職業と同性愛という性嗜好はあまりにも相容れない。欧米各国の政治的見解と、教会の権威、信仰層の保守化から、公開された各国から烈しい議論が巻き起こり、ローマ法王から抗議声明文が発表された。これがアメリカ公開にも影響を受け、さらに日本上陸には時間がかかり1994年製作にも拘わらず、日本公開は1997年となった。いまでこそ、こんなことでこんな問題にはならないだろう。しかし、「映画靖国問題」を彷彿とさせる。。
 実は、この映画を観たとき、ゲイバーに通ってはだめだ、自業自得だと思った。もっと隠れたやり方があったはずだ。しかし、この苦悩と不条理感は痛いほど伝わる。ボクは無新論者だが、たとえば、今の職場でカミングアウトすることはタブーである。宗教的な罪の意識に関しては共感に困難を憶える。だがちょっとオープンにしすぎなボクには批難しきれない部分がある。そしてこういうことが絶対起こらないとは限らない。他にゲイを描いた映画はたくさんある。ゲイは病気じゃないか、ゲイは秘密にしなければならない、そういう視点で描かれるが、ここでは司祭であるがゆえに自分の本能的な肉欲を罪の意識として捉えるところにほかの映画と違う切なさがある。罪深さがある。
 ただ、リサを助けられなった情けなさと熱意だけでは通らない不条理さは、設定が違えばだれでもあることだ。なぜ同じ人間を愛して悪い?司祭だから? 最後、リサを抱きしめて嗚咽して涙するシーンは実に痛ましい。ボクには彼を責められない。違うやり方があったにせよ、彼の苦しみはあまりにリアルだ。人を助ける、これは簡単なようですごく難しいことだ。結果、最後のミサを終えたグレッグはどうなったかわからない。リサを泣きながら抱きしめるシーンが遠景になって終わる。少しだけ救われた、そういう気持ちを残して終わる。リサを助けられなかったのはゲイだからではない。司祭だからだ。守秘義務のせいだ。しかし、彼が信頼を失い、説得力を失くしたのは、ゲイが露呈して、信者からある意味司祭としての資格を剥奪されたかのようなバッシングを受けたからである。それはさらにリサを救えない原因に拍車をかけたことになる。
 べルリン国際映画祭で批評家国際連盟賞を受賞している。この後アントニア・バード監督は『マッド・ラブ』という精神に異常をきたし時に発作を起こす少女を愛す恋愛映画を撮っている。これもかなりシリアスだ。好きな作品である。しかし、この『司祭』の辛辣さには少し敵わない。残念ながらデビュー作のこの作品が最高作品となってしまったようだ。

◎作品データ◎

『司祭』
原題:Priest
1994年イギリス映画/上映時間:1時間45分/セテラ・インターナショナル配給
監督:アントニア・バード/脚本:ジミー・マクガバー/製作総指揮:マーク・シヴァス/製作:ジョージ・フェイバー,ジョセフィーヌ・ワード/音楽:アンディ・ロバーツ/撮影:フレッド・タンメス
出演:ライナス・ローチ,ロバート・カーライル,トム・ウィルキンソン,キャシー・タイソン,レスリー・シャープ
 
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