good will hunting

 南ボストンに住む20歳の青年ウィル・ハンティングは、かつて警察沙汰を起こし、現在は仮釈放職業プログラムのひとつとしてマサチューセッツ工科大学の用務員をしていた。仕事が終われば親友とバーに繰り出す日々、それに満足をしていたが、心のどこかで物足りなさを感じていた。ひとの10倍の速さで本を読み難解な定義を解いてみせる天才的な頭脳を持っていたからである。喧嘩騒ぎを起こして裁判所に拘留されていた彼は、数学教授のランボーから面会を受けた。自由の身を保障してくれるというのだ。条件はふたつ。「ランボーの研究室で勉強をすること」と「セラピーを受けること」。セラピーは嫌だと思っていた彼も、自由への欲望には勝てず、譲歩し条件を呑むことにする。ことごとくセラピストを撃退したウィルの心を惹き始めたのはコミュニティカレッジ講師のショーンだった。ショーンは最愛の妻を亡くし気力を失っていた。気力を失ったセラピストのショーンと才能を無駄にする勝気な青年ウィル、互いが反感を持ちながらも次第に心を開き合いはじめて行った。そしてやがて、お互いの少年時代の虐待を受けた過去を知り、ショーンの腕の中で心のわだかまりを涙で流すウィル。自分を見つめ直すことの怖さを恐れなくなったウィルは、過去を忘れ未来に生きようとする。自分にとって心の友がショーンであり、自分の進むべき道に気付くのだった。
  『ドラッグストア・カウボーイ』『マイ・プライベート・アイダホ』と小さめの秀作を取り続け、監督のファンになった途端『誘う女』『カウガール・ブルース』といまいちな作品が続いてげんなりしていた。ところが直後、今のところ彼のベスト1とも言えるこの作品を作り上げたことは実に嬉しいことだった。脚本が彼自身のものじゃないところに新しいテイストが生まれたのかもしれない。その脚本を書いたのがウィルを演じたマット・デイモンとその親友を演じたベン・アフレック。この脚本でオスカーを受賞する。もっと書けばいいのにふたりとも以降映画での脚本にはボクは出会っていない。また、ベン・アフレックよりも先に男優としてオスカーノミネーションを果たした弟のケイシー・アフレックが『ジェシー・ジェームズの暗殺』でブラッド・ピットを喰う名演を魅せる片鱗も見せないほどつまらない役でこの映画に出ているのも、今観るととても興味深い。そして何と言っても、ショーンに扮するロビン・ウィリアムズがコメディではない、とても心理描写豊かなこの作品でアカデミー賞助演男優賞を獲得したのは嬉しいことだ。
  ここには、いくつかの関係が登場する。まずいちばんの軸になるウィルとウィルがはじめて心を開くショーンとの、同じ傷を持つセラピーを通じた関係。カウセリングを毎週受けているボクには実に羨ましい関係だ。ふたつめは遊び仲間のウィルとチャッキーの関係。天才であるウィルに劣等感を抱くことなく違う世界を指南してやるチャッキーの感動的なセリフがある。「おれはこう思っている。いちばんのスリルは車を降りてお前ん家の玄関に行く10秒前。ノックしてもお前は出てこない。何の挨拶もなくお前は消えている。そうなればいい」こんな関係は、多分現実的には存在しないだろう。もし周りに大切なそういう存在がいたらいなくなることを望むだろうか。おそらくしない。ただ、この出来の悪い親友のように本当に無償の愛を知っていたらこう言える。今ならそう思える。みっつめはウィルとウィルの彼女となるハーバード大学の女子大生との関係。秀才にも拘わらず見た目悪ガキのウィルの本質を見抜き、惚れてしまう心の広い才女は、それでも彼の過去の傷に触れてしまい一旦は別れることになる。しかし、ウィルはショーンの亡き妻を今も愛する気持ちを理解してショーンに心を開くと同時に、彼女を自分の未来に託すことにする。この恋愛関係はあまり他の映画で観たことがない。実に爽やかな恋愛だ。そして、あともうひとつ、ウィルを見出したランボー教授とショーンの元ルームメイトという関係。ふたりは過去でもぎくしゃくしているが、現在もそれを引きずりウィルの将来をそれぞれの篤い想いで衝突し、最後には考え方が違うことを痛感しながらも認め合ってゆく。すべての関係が、ウィルの心を開き成長してゆく姿に翻弄されながらも、最後には纏まってゆく。
  過去のトラウマ、それを払拭することで、関係が出来、未来が拓ける、これは、まったく別世界のようでいて、実は天才でもだれでも抱く傷や恐怖や迷いと、それに向き合い未来を見出す自我の確立の映画なのだ。タイトルの『グッド・ウィル・ハンティング』とは良き人物となったウィル・ハンティングのことであり、良いことは追い求めることだというふたつの意味を兼ねているのではないだろうか。

◎作品データ◎

『グッド・ウィル・ハンティング~旅立ち』
原題:Good will Hunting
1997年アメリカ映画/上映時間:2時間7分/松竹富士配給
監督:ガス・ヴァン・サント/製作総指揮:ボブ・ワインスタイン, ハーヴェイ・ワインスタイン, ジョナサン・ゴードン, スー・アームストロング/製作:ローレンス・ベンダー/脚本:ベン・アフレック, マット・デイモン/音楽:ダニー・エルフマン/撮影:ジャン・イブ・エスコフィエ
出演:ロビン・ウィリアムス,マット・デイモン,ベン・アフレック,ステラン・スカルスゲールド,ミニー・ドライバー
 
recommend★★★★★★★★★★
favorite     ★★★★★★★★★☆
広告